きょう長崎原爆の日

 よく知られた詩の一節を。〈何も彼(か)も いやになりました/原子野に屹立(きつりつ)する巨大な平和像/それはいい それはいいけど/そのお金で 何とかならなかったかしら/…さもしいといって下さいますな、/原爆後十年をぎりぎりに生きる/被災者の偽らぬ心境です。〉▲23歳で被爆した長崎の原爆詩人、福田須磨子(すまこ)(1974年没)は発熱、脱毛といった後遺症に、生活苦までも重なった。公的な支援はない。巨費を投じた平和祈念像を見て、その詩「ひとりごと」は生まれた▲原爆で亡くした父に、荒木博美さんは詩をささげた。〈父よ/あれから十年です/僕は大きくなり/母は老いてきました/…父よ/僕の進む道を知って下さい/僕はあなたの魂に生きるのです〉…▲ともに、52年前に出版された「日本原爆詩集」(太平出版社)から引いた。広島、長崎の何百人もの詩を収めている▲被爆10年という時代。苦しみ、怒り、嘆きと、それでも生きるという誓いとが、渦巻いていたに違いない。書き記された言葉、「証言」という語る言葉が77年分、積み重なって、長崎原爆の日が巡ってきた▲核兵器の使用をほのめかす国があるいま、被爆者の、被爆地の発する言葉は重みを増す。亡き人々、苦難の道を歩んだ人々の思いを、その言葉に重ねるのを忘れまい。(徹)

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