クルーズ船の来ぬ港

 白南風(しらはえ)とは、梅雨明けの頃に吹く南風をいう。〈白南風やクルーズ船の来ぬ港〉。7月半ば、この欄のお隣にある「きょうの一句」に載った、美野田利江さんの作。かつては引きも切らず、長崎の港に大型クルーズ船が出入りしていたが、今では遠い光景に思える▲10年前、読者のご要望を受けて「クルーズ船情報」という、入港をお知らせする小さなコーナーを紙面に設けた。長崎港、佐世保港を中心に、掲載はこれまで1300本に上る▲コロナ禍でそれも出番を失い、掲載は昨年が1本、今年はこれまでに3本。大型客船が港に停泊する優雅な光景は、今なお遠い▲いつかまた、それが「いつもの景色」に戻れば、観光県は息を吹き返したといえるのだろう。回復への一歩になるのかどうか。日本への入国者数の上限が1日当たり5万人に引き上げられた▲国内の観光客はじわりと増えても、訪日客が戻るのはまだ先だという見方が県内では強い-と先日の記事にある。円安で訪日客の購買力は上がるというのに、もどかしさが募る一方だろう▲〈クルーズ船の来ぬ港〉に一変して2年半。まずは国内客を、それからじわじわ訪日客も。地方の観光県がたどる道のりは長いが、前を向きたい。新幹線の開業にハウステンボスへの大型投資と、未来は決して暗くない。(徹)

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