国葬済んで

 〈あなたはワンマンといわれ、妥協を知らぬ人ともいわれた。その半面、花を愛し、人を愛し…〉。55年前、吉田茂元首相の国葬の葬儀委員長を務めた佐藤栄作首相は弔辞でこう述べている▲確かに「ワンマン宰相」だったとしても、死去から日が浅ければ、なかなかそうとは言えない。首相を退いて13年、「戦後日本を立て直す大仕事を背負った」という人物評がほぼ定まったからこそ、一方では妥協しない人でしたね…と、昔語りもできたのだろう▲亡くなって3カ月に満たないこと。その死が衝撃的で悲痛だったこと。安倍晋三元首相の国葬で、岸田文雄首相の弔辞が「故人をしのび、懐かしむ」ような味わいと縁遠かったのは、そんな事情と無縁ではあるまい▲急ぎ足で故人の“業績”を並べては称賛し、国葬で送るにふさわしい人だと重ねて強調する-。なんとも「説明的」な弔辞には、もう一つの事情もあったと察する▲賛否が割れた国葬も「やっと幕引き」。岸田首相の胸の内はそんなところかもしれない。だが振り返れば、佐藤栄作首相の一存で決まったとされる55年前の国葬は、後になって国会で「やはり基準が必要」と責められている▲世論を二分したままで「終わり」と決め付けるのは、きっと早い。国葬は済んでも「信頼回復」という宿題は残る。(徹)


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