「新幹線が化学反応のきっかけに」 放送作家、脚本家・小山薫堂さん(58)

小山薫堂さん(本人提供、金田吉弘氏撮影)

 2011年の九州新幹線(博多-鹿児島中央)全線開業を前に、地元の熊本県からPRのアドバイザーを依頼されました。当初は福岡、鹿児島両県と比べて盛り上がりがいまひとつ。むしろ新幹線が通ると「素通りされるのでは」「若者が福岡に買い物に行くのでは」など“熊本離れ”を心配する声もありました。
 ぼくは、人を呼び込むより、県民が地元の魅力を再発見できることを重視しました。象徴的なキャラクター「くまモン」が生まれ、県民の愛情を集めることもできました。外側の人たちの視線を通して、自分たちの土地の魅力に気づくことが、実は観光の一番のメリットと思っています。
 九州は周遊した方が面白いので、西九州新幹線の開業でプランが立てやすくなるかもしれません。ただ、過度な期待は禁物です。時として「行きにくい」が旅の価値になることもあります。武雄温泉駅で在来線に乗り換えるという「不便さ」がプラスに働くかもしれません。「行きたい」につながればいいわけです。
 長崎市に住んでいる人がうらやましいです。あの坂道の情緒は、日本の他の土地ではなかなか見当たらない。まちの情緒って、お金をかけた都市開発や商業施設ではつくれないんです。何でもない坂道でも心が震える。初めて来たはずなのに、なぜか懐かしい旅人を惹(ひ)きつける磁力がありますね。
 強いて、足りないものを挙げるなら、若い感性で磨かれたお店が少ないかな。地元の人たちだけじゃなくて、外から来た人との化学反応で新しい風が吹く。雲仙市などでは面白い動きも出ていますし、新幹線が新しい化学反応を生むきっかけになるといいですね。
 暮らしている人が幸せを感じることで、その土地の魅力は磨かれます。人のためよりも、まずは自分たちが心地よく暮らしたい、幸せを感じたいという場所には、自然と人が集まるのではないでしょうか。

 【略歴】こやま・くんどう 熊本県天草市出身。放送作家として「料理の鉄人」などの番組を企画。映画脚本「おくりびと」で米アカデミー賞外国語映画賞。くまモンの生みの親。大浦天主堂や旧グラバー住宅を建築した小山秀之進は高祖父。長崎市内の銭湯「丸金温泉」(廃業)を見てひらめき、企画・脚本を担当した映画「湯道」が来年公開予定。


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