「平和、ずっと続いてほしい」 井黒さんの被爆体験基に創作バレエ かとうバレエが長崎で披露

「伝えよう……未来へ」を上演する加藤さん(中央)ら=長崎市茂里町、長崎ブリックホール

 長崎市の創作バレエ教室「かとうフィーリングアートバレエ」代表の加藤久留美さん(59)が、長崎で被爆した井黒キヨミさん(96)=同市香焼町=の体験を基に約20分間のバレエ作品「伝えよう……未来へ」を創作し、6日、同市で開いたリサイタルで披露した。客席で鑑賞した井黒さんは「胸いっぱい。核を廃絶し、この平和がずっと続いてほしい」と語った。
 加藤さんは今夏、ラジオから流れてきた井黒さんの被爆体験を耳にして、「長崎を最後の被爆地に」といいう井黒さんの思いを舞台から発信したいと思い立った。創設者で父の久邦さん(故人)も生前、平和や命の大切さを訴え続けており、加藤さんも父の遺志を継いでいる。
 取材を申し込み、9月に井黒さんを訪ねて2日間約8時間にわたり体験などを聞き取った。井黒さんは被爆当時19歳。見習看護師として桜馬場町(当時)の医院(爆心地から3.2キロ)で働いていた。全身焼けただれた人々が次々と押し寄せ、翌日からは伊良林国民学校に設けられた救護所で救助に当たった。自身も脱毛するなど体の不調があり、流産した際は「原爆のせい」と偏見にさらされたという。

鑑賞後、作品の感想や平和への思いを語る井黒さん

 ロシアのウクライナ侵攻で、核兵器使用の可能性も懸念される現状に加藤さんは危機感を抱き、平和を願い、ダンスと井黒さんの語りを融合させた作品を完成。10代から70代の生徒約30人が出演した。
 「伝えよう…」は冒頭、井黒さんの声で原爆投下時の様子などが語られ、閃(せん)光(こう)、そして爆音。被爆直後をイメージした真っ赤な舞台にはひん死の人たちがうごめく姿。その後、被爆者の深い悲しみや、アップテンポの曲に乗せて長崎の復興が描かれた。最後は「未来を見据えた平和への願い」をテーマにした踊り。「戦争だけは絶対してもらいとうなかです」などと井黒さんの語りが流れ、加藤さんも「平和の精」に扮(ふん)して全身で表現した。
 今回のリサイタルは「命」を全体のテーマに、県内26クラスの生徒約120人が八つの演目を披露し平和への願いを表現。加藤さんは「幅広い世代の人たちが平和について考えるきっかけになればうれしい」と話している。


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