尾上松之助の未公開フィルム発見 検閲部分、ユーチューブで公開

検閲でカットされていた「落花の舞」の一場面。左が尾上松之助(1925年、日活、池田富保監督)=国立映画アーカイブ提供

 岡山市出身で日本映画草創期の大スター尾上松之助(1875~1926年)が出演した映画の未公開フィルムが見つかった。25(大正14)年封切りの「落花の舞」で、旧内務省が残酷だなどとして検閲でカットしていた部分。松之助は清水次郎長役で登場しており、フィルムを所有する国立映画アーカイブ(東京)が動画投稿サイト・ユーチューブで公開している。

 同アーカイブが10月、戦前の日本の映画検閲を調べる過程で確認した。旧内務省職員で映画コレクターだった男性(故人)から88年に受けた寄贈品の中にあった。男性がフィルムを持っていた経緯は不明という。

 「落花の舞」は無声映画で、江戸時代末期を舞台に幕府の密書を巡って二つの勢力が争う物語。今回見つかった映像は計約4分半。松之助は約50秒間登場し、敵に殺された子分を抱きかかえ、死を悼む。同アーカイブによると、子分の顔に施された血のりが「残酷」と判断された。

 同アーカイブの冨田美香主任研究員は「表情やしぐさが自然体で、リアルな人物造形がなされた演技。以前の英雄や豪傑の役とは異なり、晩年の新境地を感じさせる」と解説する。

 「落花の舞」の上映フィルムは現存しないという。松之助の顕彰活動に取り組む尾上松之助遺品保存会(京都市)の松野吉孝代表(70)は「貴重なフィルム。松之助の魅力を知ってもらうきっかけになれば」と話す。

 尾上松之助(おのえ・まつのすけ) 本名は中村鶴三。旅回りの歌舞伎役者として巡業中、「日本映画の父」と呼ばれる牧野省三監督に見いだされ、映画俳優に転身した。ぎょろりとした目で見えを切るポーズから「目玉の松ちゃん」の愛称で親しまれた。日本最初の映画スターとされ、出演作は千本以上といわれる。

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