12月3日に開催される「第23回しずおか市町対抗駅伝」に出場する静岡市清水チーム。今回の駅伝にひと際強い思いがあります。
<静岡市清水 山崎弘靖キャプテン>
「うちは床上浸水した。自分よりも速くても、浸水で選考会に出られなかった人もいる。走りたかったのに走れなかった子どももいっぱいいると思う。夢や希望を与えられるように一生懸命走りたい」
9月24日。台風15号による大雨が静岡を襲いました。中でも、特に被害が大きかったのが静岡市清水区でした。
<住民>
「(この周辺は)海だったもんね」
この駅伝の第5中継所、鳥坂自治会館前も変わり果てた姿に。
<住民>
Q駅伝は楽しみか
「一応応援したいと思う。早く復興できればいいけどね」
まちの人にとっても、今回の駅伝は特別です。
静岡市清水のメンバーにも特別な思いを持つランナーがいます。東海大静岡翔洋高校の岩﨑茉奈さんです。3年生になったとき、ある決断をしました。
<岩﨑茉奈選手>
「高校を卒業したら美容の専門学校に行く。新しいことを始めてみたい。陸上をこの駅伝で最後にしようと思っている。最後、死ぬ気で走ろうと思っている」
2021年まで2年連続1区を走り、必死にタスキをつないできた茉奈さん。思い入れのある大会を最後の舞台に決めました。
<東海大静岡翔洋高駅伝部 秋岡達郎監督>
「岩﨑選手はどちらかというとスピードがあって、800mあたりが得意。でも、駅伝は長い距離を走るので、市町対抗駅伝に向けて練習している。市町の人に感謝の気持ちを込めて楽しく走ってほしい」
サッカーをしていた茉奈さんが陸上を始めたのは9歳のとき。学校の持久走で上位に入ったことがきっかけでした。
<岩﨑選手>
「最初は『何が楽しんだろう』と思っていた。きつい練習を積んで、大会や記録会でタイムが縮んだ時に周りの人が喜んでくれるのがうれしい」
人を喜ばせることが大好きな茉奈さん。翔洋駅伝部にとって欠かせない存在です。
<チームメート>
「(岩﨑選手は)ムードメーカーみたいな感じ」
「いつもふざけたりしていて一緒にいてみんなが笑顔になる存在」
Q岩﨑選手のことをなんて呼んでいるのか
「まなやん」
<岩﨑選手>
「仲間がいなかったら初めの方で辞めていたかもしれない。部活に来て話をするのが楽しいからがんばれる」
しかし、2022年6月。思わぬ出来事が起こりました。
<岩﨑選手>
「事故に遭った時は『もうダメだ』と思った。もういいや、と思った」
自転車で帰宅していた時、車にひかれて、両足を打撲。痛みは長引き、大切な夏場に走ることができませんでした。市町対抗駅伝の前に陸上をやめることも考えた茉奈さんの背中を押したのは、家族でした。
<母・愛子さん>
「『走っている茉奈はかっこいい』とずっと言っている。しょうがないかなとも思っていたが、(市町対抗駅伝には)2年間出場していたので、私としては、もう1年がんばってほしいという気持ちは正直あった」
<岩﨑選手>
「(母に)『最後、そんなんで終わっていいの?』と言われて、『痛いのは私だから、ママにはわからない』と思って強く当たってしまったが、背中を押して、最後の駅伝で、陸上人生を最後にすることができると考えると、あのとき、声を掛けてくれて、ありがたかった」
ところが、またしても試練が立ちはだかりました。
<岩﨑選手>
「完全に水が流れている感じで、道路が川みたいになっていた」
台風15号による豪雨でランニングコースだという家の前は冠水。断水被害にも遭い、日常を奪われました。
<岩﨑選手>
「せっかく走れるようになってきたのに、道路の泥が乾いて、走ると砂が舞っていた。こんなこと初めてだし、ちゃんと生活できるまで陸上は仕方ないと思った」
それでも、茉奈さんは走り続けました。
<岩﨑選手>
「清水区の代表として、清水区が1番被害に遭っているので、清水区の人がわたしたちの走る姿をみて、少しでも元気になってくれたら」
自分の走りで大好きなふるさとを勇気づけたい。
<静岡市清水チーム事務局 小泉貴代美さん>
「切磋琢磨しながら、がんばる姿は応援したくなる」
この1年、逆境を乗り越え続けた茉奈さん。応援してくれる人たちとともに陸上人生のゴールテープを切ります。
<岩﨑選手>
「いままでの陸上人生で応援や指導してくれた人に最後にがんばってきた姿をみせられるように、わたしの陸上人生を最後ゴールできるようにがんばりたい」