「国が放置 最大の問題」 <被爆2世の視線 初の判決を前に> 争点を整理

NPT再検討会議のサイドイベントなどについて帰国報告をする崎山氏=8月31日、長崎市内

 長崎原爆の被爆者を親に持つ被爆2世の援護を国が怠っているのは違憲だとして、2世ら28人が国に1人当たり10万円の国家賠償を求めた訴訟の判決が12日、長崎地裁で言い渡される。次世代への放射線の影響を巡る初の司法判断とみられる。判決を前に、6年近くに及んだ訴訟の争点を整理し、2世の目から見た援護の在り方を考える。

 77回目の「長崎原爆の日」を1週間後に控えた今年8月2日。被爆2世の崎山昇(64)は米ニューヨークの国連本部にいた。核拡散防止条約(NPT)再検討会議のサイドイベントで世界にこう訴えた。「健康障害、健康不安におびえ、社会的偏見や差別にも苦しんでいる。しかし、人権を保障する公的援助を全く受けることができない」
 健康不安を抱え、援護を求める被爆2世。「放射線の影響は認められない」と拒む国。両者の主張は長年平行線をたどってきた。国は2世に援護をすべきか。その一つの「答え」が12日に示される。
 「私たちが置かれている状況を国が受け止めようとせず放置してきたことが最大の問題」。訴訟の原告団長で、全国被爆二世団体連絡協議会(全国二世協)会長の崎山は憤る。被爆者援護法は2世を援護対象としておらず、2世団体は国に法的措置を求めてきた。

被爆2世訴訟に関する主な経過

 訴えの根底には「国が起こした戦争の責任は国が取るべき」という国家補償の発想がある。原告団が根拠とするのは、1978年、外国人被爆者救済の道を開いた孫振斗(ソンジンドウ)事件の最高裁判決。援護法の前身、原爆医療法について「戦争遂行主体であった国が自らの責任により救済をはかる」国家補償の側面が制度の根底にあると指摘した。
 だが、司法の判断に対し立法は異なるスタンスを示した。判決を受け国が79年に設置した原爆被爆者対策基本問題懇談会(基本懇)は「被爆者対策も公正妥当な範囲にとどまらなければならない」と指摘。2世については「有意な(遺伝的)影響は認められていない」と報告した。
 基本懇の第1回会議で厚生相の橋本龍太郎は警戒感をあらわにした。「(被爆者を)国家補償の対象にすると、一般の戦争犠牲者にも広がりはしないかと大変恐れていた。そういうことで、特別な社会保障という定義にこだわってきた」。崎山は「基本懇は援護の幅を狭め、政府の責任を薄めた」と批判する。
 国家補償の立場から幅広い救済を求める被爆者や2世らの闘いは続き、88年には全国二世協が発足。翌年には国家補償の精神と2世の援護を盛り込んだ“幻の法案”が登場する。
 89年、自民党を除く全野党・会派が共同で原子爆弾被爆者等援護法案を国会に提出。2世は健診を受け、一定の疾病を患っていれば援護対象にすると定めた。だが、法案は参議院で可決したものの、衆議院で廃案に。92年にも同じような法案が提出され、再び廃案となった。95年に施行された現行の援護法では、2世は法の救済から漏れた。
 「被爆70年を迎え、このままでは国は何もしないと考えた」。原告団は2017年、国が法的措置を怠るのは違憲だとして長崎・広島両地裁に提訴した。
 遺伝的影響の可能性は否定できないと訴える原告側に対し、健康影響は確認されていないと反論する国。6年近くに及ぶ法廷闘争でも両者の対立は続いた。そんな中、原告団に期待を抱かせる司法判断が示された。21年、広島高裁で言い渡された「黒い雨」訴訟の判決だ。=文中敬称略=

© 株式会社長崎新聞社