バイデン米大統領 長崎訪問案検討 県内被爆者ら「核廃絶へ具体的道筋を」

 来年5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に合わせ、日米両政府がバイデン米大統領による長崎市訪問案を検討しているとの情報が20日、被爆地長崎を駆け巡った。実現すれば現職米大統領の長崎訪問は初。「『長崎を最後の被爆地に』という揺るぎない意思を世界に発信してほしい」「核廃絶に向けた具体的な道筋を示して」。被爆者らの間に期待と要望が広がった。
 県内の被爆者4団体はかねて米大統領の長崎訪問を要望してきた。県被爆者手帳友の会の朝長万左男会長(79)は「(広島、長崎に原爆を投下し)核時代の扉を開けた米国は、核なき世界に導いていく責任がある」と指摘する。
 「核兵器なき世界」を掲げるバイデン氏に対し、核の先制不使用政策採用を期待する声もあったが、抑止力低下を懸念する同盟国に配慮し断念したとされる。朝長氏は岸田文雄首相の同行が有力視されることに触れ「同盟関係を維持しながら、どのように核なき世界を目指すのか、世界に発信してほしい」と両国首脳に注文を付けた。
 長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(82)も歓迎の意を示しつつ「今も多くの被爆者が苦しんでおり、謝罪をしてほしい」。世界の核弾頭の約9割を米国とロシアが占める現状を踏まえ「核をなくしていこうと呼びかけることが米国の責任」と訴えた。
 ロシアのウクライナ侵攻で核兵器使用のリスクが高まる中、長崎市の田上富久市長は「被爆地の願いである『核兵器のない世界』に向けた潮流を再びつくりだす契機になる」と実現に向け前向きな検討を求め、大石賢吾知事も「非常に大きな意味がある。本県としても実現に向け協力したい」と期待感を示した。
 敬虔(けいけん)なカトリック教徒として知られるバイデン氏。原爆による破壊から再建された浦上教会(浦上天主堂)を訪れる案もある。同教会の信者で被爆者の松尾幸子さん(88)は「時間をかけ被爆マリア像など浦上の惨状を見て、被爆者の話を聞き、アメリカに帰って広めてほしい」と願う。
 8月に米ニューヨークであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議を傍聴した「ナガサキ・ユース代表団」第10期生の猪原彩美さん(20)=長崎大2年=は「核使用リスクが高まる現状は非常に危険。核抑止が本当に機能しているか、見詰め直す転換点にしてほしい」と語った。


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