見えない敵が、また

 今時分、街はいくぶんにぎやかさを増している。〈あれを買ひこれを買ひクリスマスケーキ買ふ〉三村純也。両手にたくさんの荷物を抱え、家路を急ぐのだろう▲時節柄、本来はクリスマスケーキに使われたはずの卵も数多くあるに違いない。鳥インフルエンザが猛烈な勢いで広がり、感染が認められた養鶏場の周辺で鶏や卵の出荷に制限がかけられている▲養鶏、採卵を営む人たちの落胆は、どんなに深いだろう。佐世保市江迎町の養鶏場も、県内で初めて陽性と確認され、2万7千羽ほどの処分がきのう始まった。天を仰ぐ日々がしばらく続く▲「見えない敵」とは、ただ目に映らないというよりも、えたいが知れず、こちらを脅かすものを指すことが多い。新型コロナが広がり始めた時にこう呼ばれたが、鳥インフルエンザもまた、猛威を振るうたびに「見えない敵」と恐れられてきた▲前もって手を打とうにも、感染ルートを見定めがたい。「見えない」とはそんな意味だろう。全国的な拡大を受けて、県内では一部で車の消毒ポイントを設けたりしてきたが、「敵」はなかなか封じ込めない▲「もう広がらないで」と地元では祈る声が強まっている。見えない敵の、これから先がなかなか見えない。防疫の壁をより高くして、年末の危機を何とか乗り切りたい。(徹)


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