日銀、金融緩和の見直しは何が問題だったのか−−今後、考えられるシナリオとは?

12月19日週の東京株式市場で日経平均株価は、12月21日(水)まで5営業日連続で下落し、1,700円を超える値下がりとなりました。12月22日(木)に反発したものの、23日(金)は前日比272円62銭安の2万6,235円25銭と再び下落。前週12月16日(金)の日経平均株価は2万7,527円12銭でしたので、週間では1,291円87銭の下落となりました。

前週12月14日(水)のFOMCでは政策金利見通しで2023年末の予想が引き上げられ、15日(木)のECB理事会ではで4会合連続となる政策金利の0.5%引き上げを決定。ラガルド総裁の利上げ継続の意思を示すタカ派的なスタンスもあり、世界的な景気後退懸念が意識されていることが相場の重しとなっています。

そんなか、日本銀行は12月19日(月)から20日(火)に開催した金融政策決定会合で、日銀が長期金利の許容変動幅を従来のプラスマイナス0.25%から0.5%に拡大すると発表。事実上の利上げと市場では判断され、主要国の長期金利の上昇につながったようです。

今回は、市場関係者にとってもサプライズとなった、日銀金融政策決定会合についてお伝えします。


日銀金融政策決定会合とは

まず日銀金融政策決定会合について見ていきます。日本銀行は日本の中央銀行で、国の金融組織の中心的機関であり、国家の公共的な銀行、金融組織の中核となる銀行です。

中央銀行の仕事は市中や銀行に資金を供給したり、通貨量の調整を行ったりすることです。皆さんが普段使っている日本のお札には、日本銀行券と書いてあります。中央銀行のみが通貨、銀行券の発行が可能なので、日本のお金を発行できるのは日銀だけなのです。

各金融機関は、日本銀行に口座を持っていてお金を預けています。マイナス金利はこの預けたお金の金利がマイナスになる、ということです。日本政府の委託を受けて、国債の発行や外国為替の決済処理など国のお金を管理するのも日銀の仕事です。国庫の支出や保管などの政府の銀行としての業務も行なっています。

そして日銀金融政策決定会合において、文字通り金融政策を決定するのも日本の中央銀行たる日本銀行の仕事なのです。最高意思決定機関である政策委員会が重要な意思決定を行なっており、政策委員会で議論し、多数決で決定されます。

政策委員会は、総裁、副総裁2人、審議委員6人の計9人で構成されます。日本銀行法第23条第1項に基づき、衆議院と参議院の同意を得て、内閣が任命しており、総裁、副総裁、審議委員の任期は5年となっていますが、再任もあります。

日銀金融政策決定会合は年8回、それぞれ2日間の開催です。会合終了後、すぐに会合の決定内容が日銀のウェブサイトに公表されるのでチェックしましょう。

日銀金融政策決定会合で話し合われる内容は、金融市場調節方針や金融政策手段、経済や金融情勢に関する基本的見解の決定、変更などとなっています。決定された政策の発表は開催最終日の12時前後となっており、発表によっては大きく相場が動きますので、その時間帯は為替、株の取引に注意が必要です。

2016年にマイナス金利政策を導入した日銀

これまで日銀金融政策決定会合で決定された政策、黒田総裁の動きを簡単に振り返りましょう。

2013年3月に就任した黒田総裁は、2%の物価目標を2年程度で実現することを掲げ、「黒田バズーカ」とも呼ばれた大規模な金融緩和で国債などの買い入れを大幅に増やし、市場に大量の資金を供給する政策を打ち出しました。

2016年には経済活性化とデフレ脱却のためにマイナス金利付き量的・質的金融緩和が導入されました。これは日銀史上で初めてとなるマイナス金利政策の導入でした。

そして変動幅は2021年3月に0.2%から0.25%に引き上げられました。
日本は2022年も日銀が超低金利政策を維持している状況で、唯一のマイナス金利政策をしている国となりました。

一方、米国のフェデラルファンド(FF)金利は4.25%から4.50%まで急速に上昇。12月は0.5%の利上げでしたが、それまでは0.75%のトリプリ利上げとなっており、異次元の金融緩和から、経済正常化のために強い金融引き締めを続けるアメリカと日本の政策差と金利差が32年ぶりの歴史的円安を招く一因となったと言えます。

2022年は、財務省と日銀が24年ぶりとなる大規模なドル売り円買いの市場介入をおこなったことも為替市場で大きな出来事でした。

12月の日銀金融政策決定会合でサプライズ

日米金利差の拡大などによる円安進行、貿易赤字やコストプッシュインフレが日本経済や国民生活を圧迫する可能性が懸念されているなかでも、黒田総裁は2022年9月22日(木)の会見では「金利を引き上げることは当面ない」と明言していました。

しかし、総務省が11月18日(金)に発表した10月の消費者物価指数(CPI)の伸び率が1982年以来、40年8カ月ぶりの上昇率となり、インフレ懸念は加熱してきたといえます。そのような背景があったからか、日本銀行は12月19日(月)から20日(火)に開催された金融政策決定会合で、金融緩和の修正を決定しました。

長期金利の変動幅を従来のプラスマイナス0.25%程度から同0.5%程度に拡大するとのことです。現状維持が市場では織り込まれており、事前当局者から市場への対話もなかったのでサプライズとなり、事実上の利上げとなるこの変更は、市場では黒田ショックとも報じられる値動きとなりました。

12月20日(火)の前場の日本市場はプラス圏で推移していたのですが、サプライズを受けて急落。ニュースで東京証券取引所の電光掲示板が目まぐるしく動く映像をご覧になった方もいらっしゃると思います。

日経平均株価は一時800円を超える大幅な値下がりとなり、終値では前日比マイナス2.5%、669円安となりました。新興市場であるマザーズ指数はマイナス4.7%と、より大きな下落となっています。

ドル円は137円台から132円台へ円高進行、長期(10年)金利は0.25%から0.44%まで急上昇し、超低金利が逆風となっていたメガバンクや保険株は買われました。

黒田総裁の発言は?

黒田日銀総裁の記者会見で相場は下落したわけですが、会見で黒田総裁がどのような話をしたのかまとめます。

今回の長期金利の変動幅の拡大について、黒田総裁によると金融緩和の効果が企業金融などを通じてより円滑に波及していくのが狙いのようで、金融緩和の持続性を高めることにより、物価安定の目標の実現を目指していくとのことです。日銀は賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定の目標を持続的安定的に実現することを目指すとしています。しかし、現状ではその実現までになお時間を要する見通しで、金融政策の枠組みや出口戦略などについて、具体的に論じるのは時期尚早であると考える、と話していました。

まとめると、また利上げではない、イールドカーブコントロールの運用の一部の見直しや出口ではないと述べ、将来の長期金利の変動幅の拡大の可能性については、外部環境の影響は不確実なもののさらなる拡大といったようなことは今のところ考えてないとしています。ただ前述の通り、市場は事実上の利上げと受け止めたようですが……。

今回の日銀金融政策の決定で、黒田総裁の記者会見によると、経済に何かマイナスが出てくるということは完全に防げると考えているようですが、本当にその通りに進んでいくのでしょうか。今後予想されるシナリオとしては事実上の利上げによって円高に動いてきており、来年以降はリセッションで米国の利上げが鈍化してくるのであれば、日米の金利差縮小が考えられます。日本の株価の見通しが利上げで苦しくなってくる可能性もあるかもしれません。今後の株価は下落トレンドが続くこともありえますし、住宅ローンが上昇することも想定されます。さまざまな可能性があることを前もって考え、それに対処できるよう備えておくことは大切だと思います。

来年は黒田総裁が2023年4月に退任予定となっていますので、その後任の新総裁の政策方針にも注目です。金融引き締め政策をとってくるのであれば相場の重しとなりそうです。

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