「被爆地歩き、想像働かせて」 芥川賞作家・平野啓一郎さん特別講演 レクナ、核兵器廃絶長崎連絡協10周年

被爆地長崎を歩き、原爆の犠牲となった人たちに想像を働かせる重要性を強調する平野さん=長崎市尾上町、出島メッセ長崎

 芥川賞作家の平野啓一郎さんが21日、長崎市内で「核なき世界の想像/創造」と題し講演。自らの被爆体験を基に作品を描いた同市出身の芥川賞作家、故林京子さんの小説や自身の取材経験を踏まえ、被爆地長崎を歩き、原爆の犠牲となった人たちに想像を働かせる重要性を強調した。
 平野さんは、被爆者の女性が登場する小説「マチネの終わりに」の取材で長崎を訪れた際、「美しい街並みが壊され、そこに生きる人たちが命を奪われてしまうのが核兵器」と実感したエピソードを披露。林さんの小説「祭りの場」で描かれる方言のリアリティーの強さに触れ「私たちは被害者を抽象化した形で想像しがちだが、一人一人の生が記憶されている」と文学作品が持つ意義を伝えた。
 世界の核情勢にも言及し「核抑止論は米ソ冷戦期に軍拡競争を肯定するためにひねり出された理屈」と指摘。「(ロシアのウクライナ侵攻で)小規模の核兵器が使われるかもしれない危機にある今、効果を示さない」と抑止論から脱却する必要性を唱えた。
 日本が安全保障環境の悪化を理由に防衛費増額と防衛力を強化する動きに警鐘を鳴らし「最も重要なのは外交。東アジア諸国との関係悪化は歴史認識問題が解決していないから。問題を解決し国交を盛んにすることが重要」と語った。
 長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA=レクナ)と、県、長崎市、長崎大でつくる「核兵器廃絶長崎連絡協議会」の創立10周年を記念した特別講演会。オンラインを含め約510人が聴講した。


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