チャットGPTがたった30秒で作った「憲法改正案」、その中身とは? 政治分野で使う可能性とリスク

岸田首相と面会後、記者団の取材に応じる米新興企業オープンAIのアルトマンCEO=10日午前、首相官邸

 対話型人工知能(AI)ソフト「チャットGPT」が日本の国会に「上陸」した。「生成AI」と呼ばれるソフトの一つで、入力した質問にAIが文章で自動応答してくれる。先日、野党議員がチャットGPTで作成した質問を岸田文雄首相にぶつけて話題となった。今後も社会に浸透しそうな生成AIが政治分野に入り込んだ場合、政府や国会にどんな影響を与えるのか。可能性とリスクを探った。(共同通信=光山正一)

中谷一馬衆院議員がチャットGPTで作成した岸田首相への質問と「首相答弁」

  ▽岸田首相とチャットGPT、二つの答弁の出来栄えは
 3月29日の衆院内閣委員会。立憲民主党の中谷一馬衆院議員は新型コロナウイルス対応の特別措置法と内閣法の改正案を取り上げ、チャットGPTで作成した質問だと説明した上で、用意した文面をこう読み上げた。
 「改正法案に地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させているのかどうか。そして改正法案に対する関係者の反応について教えてください」
 質問を受けた首相はこのように答弁した。
 「昨年、新型コロナ感染症対応に関する有識者会議で対策の検証を十分に行い、次の感染症危機に向けた中長期的な課題を取りまとめていただきました。その際、全国知事会、全国市長会などの地方団体や、日本医師会などの医療関係団体とも意見交換しており、今回の法改正は、最前線で感染症対応に当たった地方自治体や医療現場の声を反映して立案されたものだと考えています」
 

衆院内閣委で質問する立憲民主党の中谷一馬氏=3月29日

 中谷氏はさらに、チャットGPTに「あなたが日本の首相だとしたら、どう返答するか」と質問して作成した「首相答弁」をパネルで提示した。おおむねこんな回答だ。
 「今回の法改正に、地方自治体や医療現場の関係者から多くの意見や提言が寄せられています。政府はこれらの意見を丁寧に収集し、法案に反映することで関係者の要望を最大限に取り入れることを目指しました。情報を適切に開示し、透明性を確保することで、関係者の理解を深めるよう努めています」
 岸田首相の答弁と、チャットGPT版「首相答弁」―。中谷氏から所感を聞かれた首相はこう自賛した。「ぱっと見ると私の答弁は、より具体的に全国知事会、市長会をはじめ具体的な関係者の名前を挙げている点で、より実態を反映しているのではないかと感じてはいます」。委員会室はなごやかな笑いに包まれた。

チャットGPT作成の「首相答弁」と実際の首相答弁の文面

 ▽政府や国会は生成AIを活用できるのか
 中谷氏は、生成AIで作った質問を国会で取り上げたのは恐らく初めてであり、日本のAIの歴史に残る国会質疑になったと指摘。さらに、国会が生成AIを活用すれば「政府の生産性や透明性の向上につながる可能性がある」として、政府や国会の議事録を生成AIに読み込ませてはどうかと提案した。
 これに答弁した首相は、生成AIの一定の可能性を認めつつ「費用面やデータの取り扱い、政府自身がAIを独自に開発することが適当かどうかなど、整理すべき点もある」と課題に言及した。
 後日の国会質問で生成AIが議論された際も、AIのデータ学習と著作権法上の観点から、次の3点の問題意識を示している。(1)どのようなAI生成物が著作物になるか(2)著作権侵害の疑いがあるAI生成物が大量作成される恐れはないか(3)著作物を学習用データとして利用する場合、著作権者の利益を不当に害するのはどのケースか―。
 チャットGPTの開発元、米新興企業オープンAIのアルトマン最高経営責任者(CEO)は4月10日、首相と面会し、活用する際の国際的なルール作りについて意見交換した。
 西村康稔経済産業相や河野太郎デジタル相は中央府省庁での活用について、著作権やセキュリティーの確保に留意しつつ、前向きな姿勢を示す。
 中谷氏に取材した。生成AIを政治に取り込めば、こんな変化が生まれるのではないかと想像できるという。
 議事録をしっかり読み込ませた生成AIができると、国会質問を作る際、各府省庁や国会図書館に資料提示やデータ調査を頼まなくてもよくなり、生産性向上が期待される。
 チャットGPTではないが、音楽やイラストを作成するAIなら、国会質問に関するパネル制作、選挙で使う応援歌作りなども可能だ。
 仮に政府答弁を生成AIに任せたとすると、明言を避ける曖昧な答弁がなくなるほか、論点のすり替えとして一時話題になった「ご飯論法」も一掃できるのではないかとも期待する。

衆院内閣委で立憲民主党の中谷一馬氏の質問に答弁する岸田首相=3月29日

 ▽30秒で改憲案を作っちゃいました、具体的内容は
 チャットGPTは、機械学習という手法で膨大な書籍、論文などのデータを自動で読み込んでいる。人間の作業をパターン化して情報処理し、人間が書いたような小説や論文を生成する。多数の法令を読み込んでおり、法案を書くよう依頼することも可能だ。
 試しにチャットGPTに「日本国憲法改正案を示して」と打ち込むと、30秒足らずで次のような回答が出てきた。少々長いが、そのまま引用してみる。なお、数字は見やすさのために筆者が振った。
 「日本国憲法の改正について、以下のような改正案を提案します。
 (1)自衛隊の存在の明確化
 自衛隊は、日本国民の生命、身体、自由を守るための必要な存在であると考えられます。そこで、自衛隊を正式に憲法に位置づけ、その存在や活動を明確にすることが必要です。
 (2)緊急事態条項の新設
 災害やテロなどの緊急事態が発生した場合、政府は迅速かつ適切な対応を行う必要があります。そこで、緊急事態に関する条項を新設し、政府が必要な措置を取ることができるようにすることが必要です。
 (3)憲法改正手続きの簡素化
 憲法改正手続きは、現在では非常に厳格であり、改正が難しいとされています。そこで、改正手続きを簡素化し、より柔軟な改正が可能になるようにすることが必要です。
 (4)国民投票の導入
 憲法改正については、国民の意思を反映するために、国民投票が導入されるべきです。具体的には、改正案が成立した場合には、国民投票を行い、改正案の承認を得ることが必要です。
 (5)地方自治の強化
 地方自治は、地域の発展にとって重要な役割を担っていますが、中央集権的な構造により地方自治の発展が妨げられているという問題があります。そこで、地方自治の強化を図るために、憲法に関する規定を明確化することが必要です。
 これらの提案は、憲法に関する改正が必要であるとする見解に基づいたものであり、憲法改正に関する具体的な内容は、さらなる議論が必要です」

 

2018年10月10日撮影 国会議事堂

 ▽チャットGPTの改憲案で感じたこと
 まず気付いたのは「憲法改正案」を頼んだのに、条文案でなく考え方が出てきた点だ。条文は専門性が高く、まだ学習途上なのだろうか。
 次に感じたのは、やはり政党や国会の憲法論議が基になったとみられること。(1)や(2)は自民党が2018年3月にまとめた改憲案4項目に近い。(1)に9条という言葉が入れば、趣旨はほぼ同じになる。(2)は最近の衆院憲法審査会で主要テーマの一つ。各党議員が持論を主張している。
 (3)は改憲案4項目とは別だが、過去の議論を思い出させた。2012年に野党だった自民党がまとめた改憲草案に、衆参両院で3分の2以上の賛成が必要な改憲案発議要件を過半数に緩和する内容を明記している。2013年には当時の安倍晋三首相が意欲を示した。
 ただ(4)などは、そもそも96条に国民投票が必要だと規定されている。この手続きのための国民投票法も既に整備されており、実態に即しているとは言い難い。CM規制の在り方などが国会で議論されており、これが影響したのだろうか。

日本の政治に与える影響について「情報提供はできるが、重要なのは人間の判断力と倫理感覚」と回答するチャットGPT

 ▽「情報提供は可能。重要なのは人間の判断力と倫理感覚」
 生成AIにはリスクも指摘されている。米調査会社は2023年の世界十大リスクを昨年末に公表。「ならず者国家ロシア」「絶対的権力者・習近平」に次ぐ3番手に「大混乱生成兵器」として生成AIを挙げた。簡単な指示で画像、動画、文章を作成できるので「AIが人々を操って政治的混乱を引き起こす能力を一気に高める。ほとんどの市民が事実とフィクションを区別できなくなり、偽情報が横行し、社会的連帯、商業、民主主義の基盤である信頼がさらに損なわれる。政治的・経済的に広範な影響を及ぼす」と警鐘を鳴らす。 

 ただ、中谷氏はこう指摘している。「テクノロジーの進化は止められない。排除するのでなく、どう健全に発展させ、人類が活用していくかが重要。併せて、情報を使いこなすリテラシー教育や、事実か否かを見極めるファクトチェック機能の充実が必要だ」。
 そこで、チャットGPTに「チャットGPTが日本の政治に与える影響について」と聞いてみた。すると、こんな答えが返ってきた。
 「私は人工知能であり、日本の政治に直接的な影響を与えることはできません。ただ、私は多大な情報を持っていますので、日本の政治に関する質問に答えることができます。
 一方で、人工知能や自然言語処理技術は、政治分野においても活用されることがあります。例えば、政治家や政府機関が大量のデータを分析し、より正確な意思決定をするために、人工知能や自然言語処理技術を利用することができます。
 また、私のような人工知能が、情報を提供することで、政治に関する知識を増やすことができるかもしれません。例えば、日本の政治に関する質問に答えることで、より多くの人が政治に関する知識を身につけることができるかもしれません。
 しかし、政治における意思決定は複雑で、単純な情報提供だけで解決できる問題ではありません。重要なのは、倫理的・道徳的な判断や、民意をくみ取るための対話やディスカッションなど、人間の判断力と倫理感覚が求められます。
 つまり、人工知能が日本の政治に与える影響は限定的であり、情報提供や意思決定の補助としての役割があると言えます」

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