「遺体は魚市場の大型機械でバラバラにした」法廷で明かされた衝撃の事実 記者1年目の私がそれより驚いたのは動機だった「そんな理由でなぜ殺す?」

現場のハワイアンバーがあった川口市の繁華街

  「魚市場の冷蔵庫に隠していた被害者の遺体を、大型の機械でばらばらにし、焼却炉で燃やした」。2022年末、さいたま地裁で開かれた刑事事件の公判で語られたのは、ショッキングな遺体の「処理」方法だった。公判を取材した私は当時入社1年目で、正直に言って裁判の傍聴も初めて。残酷な殺害と遺棄の手口、おえつしながら「息子を返せ!」と叫ぶ遺族、そして凄惨な結果とどうしても釣り合いが取れない〝ささいな〟動機。この事件は決して新聞で大きく取り上げられたわけではなく、読者の目に触れることも少なかったと思われる。そんな事件でも、法廷ではさまざまな思いが渦巻き、感情を大きく揺さぶられることを実感させられた。裁判を振り返りたい。(共同通信=岡田篤弘)

現場のハワイアンバーがあった川口市の繁華街

 ▽「遺体なき殺人」だったが…
 事件が起きたのは2016年3月。埼玉県川口市のハワイアンバーで、店員の男性が55歳の被告とバーの経営者らから暴行を受け、殺害された。被告らが埼玉県警に逮捕されたのは21年になってから。バーの経営者はその後、川口警察署の留置場で死亡した状態で見つかり、被告だけが殺人罪で起訴された。逮捕まで5年もかかった一因に、遺体が発見されなかった点が挙げられる。事件は「遺体なき殺人」として公判を迎えることになった。

さいたま地方裁判所

 ▽大型の解体機で遺体を切断
 2022年11月の初公判に現れた被告は丸刈りで、マスクにトレーナーとズボン姿。裁判官に罪を認めるか問われると、「いきすぎた暴行はあった」と暴行を認めた一方で、殺意は否認した。
 検察官は法廷で、事件のきっかけを説明していく。「バーの客の財布を盗んだのではないかと被害者が疑われたこと」「被害者は被告の娘の交際相手だった。交際が終わった後も、娘名義の携帯電話を使っていた」。殺害方法については、ロープで手足などを縛り、首を踏み付けたと述べた。
 その遺体はどこに消えたのか。検察官は手元の資料を読み上げた。「魚市場の倉庫で冷凍。バンドソーと呼ばれる大型の解体機を使って解体し、焼却炉で燃やした」。身元がわかる指紋などは小さく切断したという。

さいたま地方裁判所の法廷(2008年撮影)

 ▽とても食事に行く気になれない
 私はこの時点で入社半年。公判の記事を初めて任された。必死でメモを取り続けたことと緊張もあって、昼の休廷で法廷を出る際に一気に疲れを感じた。同時に、うまく表現できないが非常に暗い気持ちにもなった。残虐な殺害、遺棄の方法はもちろん、結果の重大さと動機がうまく結びつかない。一緒に傍聴していた他の報道機関の先輩記者を見かけ「動機、強烈ですね。あれで殺されちゃうんですか…」と漏らすと、彼も「どう書こうか」と困惑した表情だった。
 同僚からは「昼ご飯いく?」と誘われたが、食事を取る気にはどうしてもなれなかった。

私が法廷で取ったメモ

 ▽「遺骨でもいいから握手したい」という遺族の思い
 昨年12月の公判では、被害者の両親と姉が意見陳述した。法廷内に置かれたついたてがあり、姿は見えない。ついたて越しに悲痛な訴えが聞こえた。「遺体はどこにあるんですか。遺骨でもいいから握手したい」「冷凍庫に入れられバラバラにされて…かわいそう。人間がすることとは思えない」
 その間、被告は顔を紅潮させ、目を閉じてじっと聞き入っていた。被害者の父親がおえつしながら「息子を返せ!」と叫んだ場面では、目をさらにぎゅっとつぶり、上を向いた。後でメモを読み返すと「目をつぶる被告」と走り書きをしていた。
裁判官は表情を変えることなく、冷静に耳を傾けているように見えた。法律のプロではない裁判員にはうつむき加減の人もいたが、筆者と同年代くらいの男性が前を見据えてじっくりと聞き入っていることが印象に残った。

さいたま拘置支所

 ▽判決で指摘された動機は
 判決は昨年12月20日に言い渡された。懲役20年。読み上げられる判決文には当然のように厳しい表現が並ぶ。「人命の重さを顧みない」「殺害方法は、被害者を人とも思わないような、残忍で無慈悲なもの」
 さらに、遺族に向けられたと思われる言葉もあった。「被害者の死が受け入れられず、気が狂いそうだと訴えるのも当然」「遺族は遺骨の一片を前にして冥福を祈ることもかなわない」
 動機については「被害者が被告の娘名義の携帯電話の利用料金を払っていないことなど」と認定された。しかし、なぜそんな動機で人を手にかけたのかは、最後まで分からなかった。そんなに簡単な理由で、人を殺せるものだろうか。
 判決が読み上げられる間、廷吏に付き添われて座る被告はうつむき加減で、表情を読み取ることはできなかった。裁判官の言葉や遺族の怒りは、被告にどう響いたのだろうか。
 被告から直接を話を聞きたい。そう考えて判決後の3月、さいたま市内にある拘置所に足を運んだ。面会を申し込み、拘置所の職員に「少しお待ちください」と言われ、待合室で10分ほど待った。しかし、戻ってきた職員から「(被告は)会いたくないとのことです」と告げられた。
 さいたま地裁によると、被告側は判決を不服として控訴した。

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