本県とのゆかり、若き日たどる 世界的版画家の企画展 宇都宮美術館など連携

池田満寿夫「愛の瞬間」(1966年 ドライポイント、ルーレット、エングレーヴィング、紙 広島市現代美術館蔵)

 世界的な版画家池田満寿夫(いけだますお)さん(1934〜97年)の作品と本県との関わりなどを紹介する企画展が、宇都宮美術館と真岡市の久保記念観光文化交流館、同市まちかど美術館の3館で開催されている。交遊のあった同時代の画家、市ゆかりの美術評論家との交流など、それぞれの切り口で展示。画家、作家など「マルチアーティスト」として活躍した池田さんの出発点がひもとかれている。

 宇都宮美術館「とびたつとき 池田満寿夫とデモクラートの作家」(6月18日まで)は、全国4館での巡回展。繊細な線が特徴的な「愛の瞬間」など、1950年代から66年ごろまでの池田作品80点超を含め、瑛九(えいきゅう)、靉嘔(あいおう)さんら、池田さんが影響を受けた画家の作品約270点から、当時世界を席巻した日本の版画を振り返る。

 旧満州で生まれ、長野県に引き揚げた池田さんは、画家を目指して上京し、デモクラートの活動に参加する。デモクラシーとアートの合成語「デモクラート」は、「民主主義の美術」の意。51年、瑛九らが結成した「デモクラート美術家協会」には画家、写真家、評論家などが集まった。

 同展は前半で、起点となった瑛九を中心にデモクラートの画家たちを、後半は彼らが飛躍を遂げた「第1回東京国際版画ビエンナーレ展」(57年)以降を、版画の可能性を切り開いた「とびたつとき」としながら展開を追っていく。

 池田さんは66年、ベネチア・ビエンナーレで版画部門国際大賞を受賞し脚光を浴びるが、「今展はあえてそれ以前に焦点を当て、なぜ版画家になったのか、本県との関わりも含めて提示したかった」と伊藤伸子(いとうのぶこ)総務学芸課長。

 池田さんの才能をいち早く認めたのが、美術評論家久保貞次郎(くぼさだじろう)さん(09〜96年)。真岡市の自邸に作家たちを集めて創作意欲を刺激し、活動を支えた。ベネチアの日本代表に池田さんを推薦したのも久保さんで、伊藤課長は「池田と銅版画の相性の良さを見抜き、翼を与えた」とその存在の大きさを説く。

 久保邸(現久保記念観光文化交流館)を会場とする「池田満寿夫展」(同19日まで)の副題は「久保貞次郎ゆかりの天才アーティスト」。同市は28点の池田作品を所蔵している。

 「女 2」は女性の姿を躍動的な線でユーモラスに表現し、世界的に評価され始めた時期の作品。「落書きスタイル」と呼ばれ、60年代に数々の国際展で受賞した色彩銅版画は、「殴り書きのような野性的な線、赤、青、黄の原色が画面に生命感を与える池田にしかできない表現」と長瀧光子(ながたきみつこ)学芸員は魅力を語る。

 同展は水彩、さまざまな技術を駆使した銅版画、マグリットの「大家族」を思わせる青空が印象的なリトグラフなど、作風の変遷をたどりながら、久保さんとの交流にも触れている。

 まちかど美術館「池田満寿夫とデモクラートの仲間たち」(同25日まで)に並ぶのは、戦後間もない時代に前衛芸術を志し、表現の自由を掲げた若い作家たちが、互いに刺激し合うことで生まれた作品20点余。

 池田さんの「朝の光」は、無名の池田さんのために久保さんが主宰した頒布会用に制作した銅版画の一つ。「光のイメージが繊細な色彩の重なりで表現されている」と長瀧さん。ほかに泉茂(いずみしげる)さんの「タイマー」などが展示されている。

 「とびたつとき」の観覧料は一般千円ほか、真岡市の2館は入館無料。

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