「もう一度 笑顔に」災害に負けない農園 クリスマス寒波でハウス倒壊 再起にかける思い

去年の年末、クリスマス寒波が全国を襲い、広島市の沿岸部でも積雪を記録。広島県内でも大きな影響を受けました。

サゴタニ牧場 久保宏輔 副社長
「数千万円単位で損害は出ています。ここであきらめるということではないので。何ができるのかを具体的に考えて行動していきながら道を探っていこうと思います」

サゴタニ牧場(広島市佐伯区)では、新たな事業として始めたばかりのビニールハウスが倒壊しました。あれから半年…。再び動き出したイチゴ農園。なぜ、もう一度、やろうとするのか? “災害に負けない農園” を目指す1人の酪農家の思いに迫ります。

広島市佐伯区湯来町にあるサゴタニ牧場です。広さ35ヘクタール、マツダスタジアム7個分の広さの牧場には、およそ120頭の乳牛がいます。

コロナ禍での牛乳の廃棄やエサ代の高騰などで厳しい経営が続く酪農業界―。サゴタニ牧場では去年夏、新規事業として、牛乳との相性が良く、商品開発の可能性を広げられるとしてイチゴ農園を立ち上げました。

地元の学生の協力やSNSなどでボランティアを募り、のべ500人を超える人たちのサポートを受けながらゼロからのスタート。

年明けの収穫に向けて作業を進めていた矢先でした。

サゴタニ牧場 久保宏輔 副社長
「もう少しでできるというようなところだったんですね。あとはしっかり実をつけるようにがんばっていこうという話をしていた矢先だったんです」

去年、12月24日の朝でした。前の晩には暖房もかけて、雪をとかす対策をしていたにも関わらず、イチゴハウスが倒壊したのです。

久保宏輔 副社長
「倒壊をして、これをもう一度、再建させるのか、それとももうやめるのかは正直、1週間ぐらい悩みまして…」

再建にも費用がかかり、再び倒壊するリスクもある中、悩む久保さんにこんな言葉をかけた人がいたそうです。

久保宏輔 副社長
「『久保さんはまだイチゴ農園で喜んでくれる人の顔を見られてないですもんね』と言われて」

「ただ、一方で建てるまでの半年間、本当にいろんな人に助けてもらって。みんな、とても楽しみにしてくれていたし、よくよく考えたら、実はもう一緒にやった人の笑顔をぼくは見ているなと思ったんです」

もう一度、みんなの笑顔と出会いたい―。再び、イチゴ農園は動き出します。まずは、ハウスの構造的な弱点を洗い出し、雪対策を講じました。

サゴタニ牧場 久保宏輔 副社長
「雪をそもそも積もらせない工夫をしようと考えていまして、ハウスの屋根のところに灌水チューブをつけて、雪が降ると常にそこから15℃ぐらいの地下水を流し続けて、雪をまず屋根に載せないようにします」

そのほかにも可変式のブレスを導入したり、ハウスの長さや高さを変えたりして工夫していくということです。

クラウドファンディングも立ち上げました。

久保宏輔 副社長
「ありがたいことに、目標金額第1弾を300万円に設定したんですけども、1週間で目標金額を達成して…」

ただし、倒壊による被害総額は6000万円を超えるということで、ネクストゴールとして新たに700万円を設定し、支援を求めています。支援のメッセージもたくさん届いているようです。

久保宏輔 副社長
「今回、支援してくださった方の中にもコロナ禍のときに牛乳を配らせていただいたときに飲んでいただいた方から『あのとき、力をもらったので、今回、今度はわたしたちが応援します』って言ってくださったり」

久保さんは、3年前、コロナ禍で廃棄となってしまう牛乳を医療従事者に無償提供することで医療現場をサポートしました。

久保宏輔 副社長
「地域に支えられているというか、本当に助けてもらいながらやっているなと。選んでくれる人、応援してくれる人があって初めてどんな事業も成立しているのかなとあらためて感じています」

農園の再建が進む中、うれしいニュースが飛び込んできました。G7広島サミットで、ランチメニューの食材としてサゴタニ牧場の乳製品が使われました。

久保宏輔 副社長
「各国の首脳のみなさんに食べていただいたことはとてもうれしいけど、ふだん牛乳を飲んでくださっている方とか、ふだん応援してくださっている方が、それを見て、喜んでくださること以上はないので」

提供されたメニューですが、久保さん自身は食べたことがないそうで…

久保宏輔 副社長
「(食べたこと)ないんですよ。『セミフレッド』も初めて聞きました。恥ずかしながら、そんな食べ物があるのかっていう…」

この日は、倒壊したハウスから奇跡的に残ったイチゴが寄贈された地元の中学から、校外学習の一環で生徒たちが牧場を訪れていました。

サゴタニ牧場 久保宏輔 副社長
「なかなかすごいでしょう。長さ80メートルがパタンと、ああ、倒れちゃった。もうここまでくると、悲しみがあまりない」

パソコンを使って生徒たちにハウス倒壊の日の様子や当時の心境、そして、再建に向けた取り組みを紹介しました。久保さんは、イチゴ農園にも案内して、廃材となった鉄パイプを見せながら子どもたちに自然の脅威を伝えました。

久保宏輔 副社長
「しっかり曲がっている。こんな感じに曲がります。一回、全部撤去して、土ももう一回、集めて、いったん保存しています。ここから今から建て直して、イチゴを作ります」

倒壊したハウスで使用した建材のうち、およそ4割が廃材となりました。

牧場で学んだ生徒の反応は…

校外学習に訪れた砂谷中学の生徒
― 感動したところは?
「自然の恩恵と厳しさ、どっちも両立しながら牧場をやっていくことです」

― 自分の街にこういった牧場があることについては?
「すごくいいことだし、ここがふるさとだから、大人になったらまた帰ってきたいと思います」

サゴタニ牧場 久保宏輔 副社長
「 “災害に負けない” っていうことは、決して “災害に勝つ” とは違って。自然に勝つということではなく、自然相手の仕事をしていると必ず、こういうことはあるものだと思っていますし。(災害が)起きても、もう1回やり直して、続けていく。そういう牧場にしていきたいなとは思っていて。それが、“災害に負けない” という言葉の意味、思いです」

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