森村誠一さんの言葉

 あの人は自由な人だからね…確かに褒め言葉とは限らない。〈「平和」もそうですね。平和だねぇ、と言うと“おめでたい奴だねぇ”という意味がある〉。変ですよねと言葉の不思議を笑いながら、彼は自由や平和や戦争を熱く語った▲7月に亡くなった作家の森村誠一さんが遺した1冊に本島等・元長崎市長らとの対談集「私たちは戦争が好きだった」がある(2000年・朝日文庫)▲〈憲法「改正」と言うでしょ。あれ、いつも気になるんです〉と前置きしながら森村さんは改憲論者たちを批判した。〈戦争の痛み、広島・長崎の痛みがどこにも感じられない〉▲原爆投下を「アジアに対する加害への報いだ」と意味付けようとする本島さんに「核使用と日本の戦争責任をごっちゃにしてはいけない。核兵器の悪性は超法規的な悪性だ」と反論する。問題意識の確かさを思う▲こんな言葉も見つけた。「戦争は、どっちが仕掛けたにせよ、どっちに正義があったにせよ、やっている間にどちらも悪くなるメカニズムがある」-。交戦する双方に悪性のウイルスみたいに凶悪な要素を伝染・増殖させるのだ、と▲出口の見えないウクライナの戦闘。正義の在りかとは別に、新しい“凶悪”を生んではいないか…そう案じながら旅立ったのでは、と思えてならない。(智)

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