そのマグロ、奄美生まれ奄美育ちの「近大マグロ」かも…「海を耕す」実験場は高級魚の養殖拠点になっていた

円形のいけすではクロマグロが500尾ほど養殖されている=瀬戸内町花天

 近畿大学水産研究所(和歌山県)は2002年、人工ふ化して成長したクロマグロが再び産卵する「完全養殖」に世界で初めて成功した。「近大マグロ」の名は全国的に知られており、養殖の拠点になっているのが鹿児島県瀬戸内町花天(けてん)の奄美実験場だ。

 奄美大島と加計呂麻島の間の静かな湾には、巨大ないけすがずらりと並ぶ。水深約50メートル。船上から海面をのぞくと、高速で泳ぎ回る体長1メートルほどのクロマグロの姿が確認できる。中には500尾。13基中11基でクロマグロを育てているという。

 餌は1日1回、魚粉や魚油が入った配合飼料を与えている。「栄養バランスを整えられるほか、残さが少なくSDGs(持続可能な開発目標)にもつながる」と職員の勝田芳樹さん(44)。20年に卵からふ化し、3~4年で重さ40キロ以上の成魚になった。

 近大初代総長の世耕弘一は「海を耕せ」を理念に掲げ、1948年に養殖技術を研究する「水産研究所」をつくった。70年からマグロ養殖の研究が始まり、90年に瀬戸内町が研究所を誘致。2001年、6番目の施設として奄美実験場が開所した。

 実験場では近年、高級魚クエ(雌)と同じハタ科の大型魚タマカイ(雄)を掛け合わせた「クエタマ」の研究にも力を入れている。商品価値が高いクエは出荷サイズに育つまで4~5年かかるが、クエタマは3年ほど。味もクエと遜色なく、刺し身のほか冬場の鍋に最適という。

 22年6月には、学生や研究者の教育・宿泊施設を備えた新管理棟が完成した。青木隆一郎助教(35)=養殖学=は「今までは飼育管理がメインだったが、魚の成熟度合いを見るホルモンの解析などもできるようになった。恵まれた環境で研究に一層取り組む」と力を込めた。

【メモ】クロマグロやカンパチなど“近大卒”の魚は、大学発ベンチャーが運営する店舗「近畿大学水産研究所」の大阪店と銀座店などで提供している。

クエとタマカイを掛け合わせた「クエタマ」=2023年12月、瀬戸内町花天

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