「三笘依存症」の脱却なるか。凄まじい進化を見せた中村、マルチな相馬、猛烈プレスの前田。左サイドの定位置争いが激化

2026年北中米ワールドカップのアジア最終予選に向け、戦い方のバリエーションを広げることにトライした6月シリーズの日本代表。

11日のシリア戦も、前半はミャンマー戦同様に3-4-2-1でスタートし、後半から可変の4-4-2にスイッチ。堂安律(フライブルク)の右ウイングバック、冨安健洋(アーセナル)の右サイドバック、鎌田大地(ラツィオ)のアンカー役など、これまであまり試していない選手起用にもチャレンジし、5-0で勝ち切るという収穫の多いゲームとなった。

そこで目を引いたのが、三笘薫(ブライトン)不在の左サイドだ。前半は、ミャンマー戦(5-0)で2得点を記録するなど異彩を放った中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)が、再び左ウイングバックでプレー。鋭いドリブル突破からのクロスで、開始13分の上田綺世(フェイエノールト)の先制弾をお膳立てすると、19分の堂安のチーム2点目の場面では、アシストした久保建英(レアル・ソシエダ)への目の覚めるようなパス出しを見せた。

「縦突破の意識が最近、すごく出てきて、それがうまく出せてアシストにつながって良かったです。1点目は試合前から上田選手と話していて、クロスを上げたのが実った。2点目のところは、ビルドアップの時に自分が少し低い位置で受けて、組み立てていくというのを練習からやっていた。あのパスは久保選手の声がすごい聞こえたんで、速い縦パスをつけることができました」と、背番号13は満面の笑みをのぞかせた。

高度な局面打開の意識は、8強敗退のアジアカップでの悔しさ、フランス1部で感じた突破力不足を経て、研ぎ澄まされたもの。特にアジア杯では、バーレーン戦で先発しながら仕事らしい仕事ができず、イラン戦で先発落ちしたことで「中に入ってゴールを狙うだけじゃダメ」と痛感。「縦突破の武器も持っていないと、代表でもフランスでもやっていけない」と危機感を強め、クラブに帰って懸命に自己研鑽を図ったという。

そこに守備面のハードワーク、球際の強さも加わりつつあるのは大きい。左ウイングバックというポジションでは、むしろ三笘よりも中村の方が活躍できるのかもしれない。そんな可能性を示したことは、本人にとっても非常に大きな自信になったことだろう。

一方で、4バックにシフトした後半の途中から左サイドハーフに入った相馬勇紀(カーザ・ピア)も、持ち味のドリブル突破で見せ場を作り、鋭い抜け出しからPKをゲット。これを自ら決めるなど、短時間ながら強烈なインパクトを残したと言っていい。

「チームでは今、3-4-2-1のシャドーだったり、やっているところはいろいろですけど、もともとウイングバックは高校時代とかもやっていた。『自分の主戦場でやれているな』という感覚はあります。

練習ではサイドハーフやサイドバックもやったりしていて、いろんなところができるのが自分の良さ。ポルトガルに行ってゴールに直結するプレーを選ぶようになったのも大きいですね」と、本人もシリア戦の前にコメントしていたが、まさにマルチな能力を今回、いかんなく示したのではないだろうか。

【PHOTO】日本代表のシリア戦出場16選手&監督の採点・寸評。3人が7点の高評価。MOMは2点に関与した左WB

奇しくも中村と相馬は三菱養和の先輩・後輩。「初めて一緒に代表に参加したのは、ちょうど1年前の6月で、すごい良くしてもらっています」と後輩の中村は嬉しそうに語ったが、彼らがしのぎを削ることで、日本代表が「三笘依存症」からの脱却の糸口を掴めるはず。それはポジティブな点と言える。

シリア戦ではコンディション不良で出場を回避した前田大然(セルティック)を含め、左サイドの選択肢が増えてきたのは本当に朗報。シリア戦で先発予定だった前田を左ウイングバックでテストできなかったのは、指揮官にとって誤算かもしれないが、アジア杯のイラン戦で、相手右SBへの猛烈プレスで仕事をさせなかったという実績はすでにある。

つまり、守備強度が必要な時は彼が最適解ということはすでに分かっている。それはポジションが左MFから左ウイングバックに移っても、大きくは変わらないだろう。

このように、三笘を含めて4人を使い分けられる状態になったのは、最終予選を戦ううえで心強い材料ではないか。欧州組は新シーズンになれば、環境や立場が変化する可能性が少なくない。中村のS・ランス、三笘のブライトンも監督が代わるし、相馬は来季の所属先が決まっていない。前田も移籍がないとは完全に言い切れないだけに、9月以降の状況は揃って流動的である。

それを視野に入れても、複数の選択肢を持つことは代表にとって重要だ。その布石を打てたのが、6月シリーズの一番大きな成果。特に伸び盛りの23歳・中村の進化は見る者にワクワク感を与えたのは間違いない。

この先、中村が三笘から定位置を奪い取ることも考えられる。そのくらいのハイレベルな競争が生まれれば、北中米W杯での上位躍進にまた一歩、近づく。今後の左サイドの動向、序列の変化を慎重に見守っていきたいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

© 日本スポーツ企画出版社