米作りを水田ではなく畑で「楽しく利益を出して苦労しなくていい」秘密は種もみについた「カビ」【SDGs】

種籾から育てた苗を水を張った田んぼに植える。私たちがこれまで見てきた米づくりです。静岡県内では2024年、農業や地球の未来を考え、新しい米づくりの実験が始まっています。

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<大石勝博ディレクター>
「土の表面は乾いているように見えます。さらに、場所によっては、ひび割れが起きているところもあります」

もともとは米を育てていた静岡県御殿場市の畑です。農家の勝亦さんは、新たな米づくりの実験を始めました。

<勝亦健太さん>
「一般の米農家が使う種もみと品種自体は一緒だが、植物の力が引き出す特殊な処理がしてある種もみになる」

種もみには、「マイコス」というカビの一種がついています。「マイコス」は、大昔から存在するカビで、土の中の水が少なくても植物の根を成長させ、水や養分を取り込む力を大きくします。一方で、有害な菌に侵されない薬もついてます。

<勝亦健太さん>
「ここに見せている農薬は60日後にはまったく存在しない状態に。紫外線や環境によって分解される成分になっている」

苗まで育てず、種もみのまま、まいていきます。田植え機を使わずに、野菜の種をまく機械で作業が可能です。

<勝亦健太さん>
「ちょっと確認してみましょうか?探すのが難しい。1cmから2cmの深さに播種をする」

このあとは肥料や雑草に気を付けながら、育てていくことになります。

日本でも始まったばかりの畑での米栽培。群馬県玉村町の原さんのグループはすでに、この畑で米を育てました。

<農業法人南玉 原泰治さん、原住夫さん>
「これが去年マイコス米です」
Q.隣にあるのは
「普通に田植えをしたお米です」
「そんなに変わりはないですね」

ご飯もこれまでのお米と同じように炊くことができます。

<農業法人南玉 町田睦美さん>
「色も大きさも変わらなかったのが、いい意味でびっくりした」

実際に炊いてみると…。

<大石勝博ディレクター>
「普通の米のように、甘い香りがしています。噛めば甘みが出てきますし、これまで私が食べてきたお米と一緒です」

<農業法人南玉 町田睦美さん>
「炊き比べをして、食べてもらったが、わからないよねというのがみなさんの感想でした」

新たなコメ作りは環境にもやさしいと期待されます。従来の栽培では地球温暖化につながるからです。

<静岡大学農学部植物圏微生物学研究室 橋本将典准教授>
「田んぼの中に水を張ると土の中の環境が酸素が少ない環境になってしまって、メタンを生成する細菌に関してはメタンガスを副産物としてだしていく。二酸化炭素と同じで、温室効果ガスの効果があると言われている」

人が酸素を吸って、二酸化炭素を吐くように、水田の土の中で生息する一部の細菌が、土の中に枯れた植物を取り込み、メタンガスを出すといわれています。畑で米を作ることによって、このメタンガスが抑えられるとみられています。

種まきをしてから1か月、勝亦さんの畑では苗が生えました。

<勝亦健太さん>
「楽しくて、利益を出して、必要以上に苦労しなくていいような、そういった農業になるためにこのやり方は良いツールだと思っているので」

静岡の農業の未来につながるきっかけとなるだけに、実際に収穫までたどりつけるか、期待がふくらみます。

群馬県の農家に取材をした中で、「畑で種もみをまいた方が、水田で田植えをするより、労働時間は3割減った」と話がありました。現場では生産者の高齢化が課題となっていて、畑での米栽培は持続可能な農業にもつながりそうです。

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