「“長友タイプ”を探すって言ってもね...」日本代表の左SB問題の最適解は? 15年間君臨した38歳の重鎮に直撃「求められる役割が変わってきたりもしているから」

2026年北中米ワールドカップのアジア2次予選を全勝で終えた日本代表。彼らは6月27日の最終予選の抽選会を経て、9月からいよいよW杯の切符獲得への重要決戦に挑むことになる。

国際サッカー連盟(FIFA)が20日に発表したFIFAランキングを見ると、ポット分けから同組の相手が全て中東勢ということもあり得るだけに、気を引き締めて準備を進める必要があるだろう。

森保一監督は戦い方の幅を広げるべく、6月シリーズで3-4-2-1の攻撃的布陣をテスト。右ウイングバックの堂安律(フライブルク)や左ウイングバックの中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)らが良いアピールを見せた。

一方で久保建英(レアル・ソシエダ)が「3バックはオプション」と語っていたように、指揮官はあくまで4バックをベースと位置づけている様子。その考えは根強いものがありそうだ。

そうなると、やはり気がかりなのが、左サイドバックの人材。ご存じの通り、このポジションは2008~2022年までの15年間、長友佑都(FC東京)が君臨し続けてきた。だが、森保監督も若返りの必要性を痛感。第二次体制以降は伊藤洋輝(バイエルン)を筆頭に、中山雄太、森下龍矢(レギア・ワルシャワ)、パリ五輪世代のバングーナガンデ佳史扶(FC東京)らを起用。最適解を見出そうとしている。

とはいえ、伊藤は3バック左かセンターバックというイメージが強く、中山は怪我で長期離脱中。森下は守備力の課題に直面し、バングーナガンデも怪我などで伸び悩みが見られるなど、「この選手なら絶対に大丈夫」という圧倒的存在が出てきたとは言い切れない状況だ。

森保監督もそう考えているからこそ、今年3月の北朝鮮との2連戦から長友を呼び戻したのだろう。結局、3月は1試合がキャンセルされたことで出番なしに終わり、6月もコンディション不良が響いて2戦連続ベンチ外となったが、38歳への信頼は揺らいでいない。

そんな現状を長友本人はどう感じているのか。FC東京の練習場を訪ねて直撃してみると、このような回答が返ってきた。

「何なんですかね...。現代サッカーにおけるサイドバックに求められる役割が変わってきたりもしているから。僕らの世代は、サイドバックがガンガン上がったり、守備で1対1で真っ向から対峙するタイプが多かったんだけど、今は洋輝みたいなセンターバックタイプの選手を置いて、彼自身はそこまで上がらなくて、ウイングに三笘(薫=ブライトン)とか(伊東)純也(スタッド・ドゥ・ランス)みたいなガンガン行ける選手をサポートするといった傾向があるんだよね。

だから『(最適な左SBの)選手が出てきたかどうか』というのは、どういうサッカー観で見るかによるのかなと。自分自身は別に出てきてないとは思ってない。洋輝にしろ、雄太にしろ、もともとサイドバックの選手ではないかもしれないけど、そもそもサイドバックに求められる現代サッカーでの役割も変わってきているから、やっぱり監督の考え方次第なんだと思います。

ガンガン前に行くタイプではなくて、前のウイングの選手をサポートしたりとか、空中戦の高さとか、ビルドアップとか、そういったところも監督が求めるんであれば、正直、適した人材が今の代表には十分いると僕は感じていますね」

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長友の客観的な目線は的を射ているし、伊藤や中山のようなタイプでも周りとの関係性や組み合わせによって十分生きてくるのは確かだろう。

ただ、長く日本代表を見てきた我々はどうしても「長友の後継者」を求めてしまいがち。インテル、ガラタサライ、マルセイユと欧州屈指の名門クラブを渡り歩き、どの指揮官にも信頼され、凄まじい走力と強度、推進力を発揮してきた左SBがいれば、先々の代表も安泰だと感じてしまうのだ。

「日本サッカー界、日本代表はこの先も『長友タイプ』を探すべきなのか」という問いに、本人は少し考えながら、こう答えてくれた。

「“長友タイプ”を探すって言ってもね...。僕みたいな『キャラが強い選手』はなかなか見つかりづらい部分があるからね(苦笑)。今、代表が求めている左サイドバック像、攻撃面は主に名波(浩)さんを中心にやってますけど、そんなガンガン上がってというより、しっかりとポゼッションして、空中戦でもチームにしっかり貢献できて、クオリティを出せるタイプの選手を高いレベルで育てるべきだなと思いますね。なかなか僕の後っていうのは、このキャラと、タイプを考えると正直、難しいのかなと思いますから」

日本代表で15年も定位置を確保し続け、W杯の大舞台に4度も立った偉大な人材に近い選手を探そうと思っても、そうそう見つからないし、出てこないのは確か。長友の言うように、「長友タイプ」にこだわるのではなく、「日本代表の中で機能するベストな左SBを探していくこと」が目下の最適解なのかもしれない。

そういう意味で、バイエルン・ミュンヘンという世界トップクラブの門を叩くことになった伊藤には大きな期待が寄せられるところ。彼は最高峰クラブで揉まれることで、まだまだ伸びるだろうし、違った意味で長友を超えていく可能性も少なくない。そこは注目に値する。

「洋輝を含めて、みんな良い選手だし、僕ももっともっとやんなきゃいけない。今の代表での役割は自分の中で感じてますから、それもやっていきますよ」と、本人は改めて目を輝かせたが、優れた若手のライバルが出てきた方が長友は燃えるはずだ。

次の最終予選は、過去4回と違って定位置は約束されていない。だからこそ、全てはここからのJリーグでの一挙手一投足にかかっている。9月に39歳になる大ベテランも加わった森保ジャパンの左SB最適解探しの行方を、我々はしっかりと見極めていきたいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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