福島県の酒、高い品質安定的に もろみ温度「見張り番」 デジタルで常時確認 県ハイテクプラザ開発 8蔵元で実証へ

 県ハイテクプラザは今年度から、酒造りで重要なもろみの温度の変化をデジタル技術で即時に確認できるシステムを開発している。もろみは発酵する温度によって日本酒の品質を左右する。福島県内の蔵元の多くは、手作業で温度の推移を記録しており、システムの導入で高い品質を誇る県産日本酒の安定的な醸造と作業の効率化につなげる。2026(令和8)年度に県内8蔵元で実証し、将来的には各蔵元での本格導入を目指す。

 県ハイテクプラザによると、捉えた映像を無線通信でサーバーに飛ばす「ネットワークカメラ」の使用を検討している。もろみが入ったタンクに設置されている温度計をカメラで読み取り、時間ごとに自動でグラフ化する。タブレットなどで温度変化を確認できる仕組みとなる。

 一般的にもろみは温度が上がると発酵が進み、低い場合、発酵が停滞する。発酵状態によって搾った後の日本酒の味わいに違いが生まれる。目指す酒質を醸すために、蔵人には緻密な温度管理が求められる。1日2回程度、確認するケースが多く、その間に温度が変化することもある。

 システムを導入すれば、リアルタイムに観測でき、温度変化に異常があった際に素早く対応できる。温度が想定より低い場合はタンクに保温マットを巻き、高い場合は風を当てるなどの対応を講じる。データを基に安定した酒造りが見込める。

 県ハイテクプラザは酒蔵と温度の情報を共有し、もろみの発酵について助言する。さらに蓄積したデータを分析し、醸造技術の向上に生かす。

 事業費は約6500万円で、国の財政支援を受け進めている。低コストでの開発を目指し、小規模の酒蔵でも導入しやすいシステムにする考えだ。

 県産日本酒は全国新酒鑑評会で金賞受賞数が9回連続日本一に輝くなど評価を受けている。

 喜多方市の笹正宗酒造では、仕込みが始まると毎日、朝と晩の2回、人の目でもろみの温度を確認している。休日に温度確認のためだけに蔵に出向くこともある。想定より冷えすぎ、発酵が止まるなどの影響もあるという。岩田悠二郎社長は「細かい温度コントロールが可能になる」と期待している。

 県ハイテクプラザの担当者は「(システム導入で)的確なアドバイスにつなげ、県内の酒蔵が求める酒造りに寄り添って支援していく」と話している。

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