「Know what I mean?」(1961年・RIVERSIDE) 差別を超えて生まれた名盤

平戸祐介のJAZZ COMBO・2

©株式会社長崎新聞社

「Know what I mean?」のジャケット写真

 長かった冬が終わり、春到来。心も身体もほっとしている人が多いのでは。この季節にぴったりの、温かな空気感があるアルバム「Know what I mean?」(RIVERSIDE)を紹介します。
 このアルバムはファンキーサックスの代表格であるキャノンボール・アダレイと、ロマンチシズムを極めたピアニスト、ビル・エバンスが顔を合わせ、1961年に発表されました。
 アダレイは黒人で、エバンスは白人。黒人に対する人種差別が激しかった当時の米国の社会情勢を考えると水と油のような関係ですが、2人には「兄弟愛が強い」「同じバンドのメンバーだった」という二つの点で通じるものがありました。
 「兄弟愛が強い」という点で、アダレイは自身が亡くなる75年まで、弟のコルネット奏者ナット・アダレイと一緒にバンド活動をしていました。一方、エバンスは兄で教育者だったピアニスト、ハリー・エバンスを深く尊敬し、ハリーのまな娘をモデルにした名曲「ワルツフォーデビー」を作りました。兄弟を大切に思うことができる2人は、音のキャッチボールでも心優しいプレーをしたのでしょう。
 もう一つの共通点は、2人がほぼ同時期に「ジャズの帝王」と呼ばれるマイルス・デイビスのバンドに在籍していたことです。人種差別が激しい中、バンド内で唯一の白人だったエバンスは、見えないプレッシャーをほかのメンバーから感じ取り、次第に居心地が悪くなって脱退したといわれています。
 そんなエバンスが、バンド在籍時に唯一、心を開いていたのがアダレイでした。アダレイは55年にジャズの中心地ニューヨークへ進出しますが、その前は学校で教師をしていました。人種差別に関しフラットな目を持っていた数少ないアーティストだったのです。
 肌の色は違えど、ともに音楽への探求に切磋琢磨(せつさたくま)し、人間愛に満ちていたアダレイとエバンス。2人のコラボレーションは柔和でありながら適度な緊張感も漂わせます。収録曲は「ワルツフォーデビー」や「グッバイ」、「ナンシー」といった名スタンダードナンバーがそろいます。
 「Know what I mean?(僕が言っていることがわかるかい?)」と優しく語りかけてくるようなサウンドに、思わず「うん、わかるよ」とうなずいてしまう-。そんな珠玉の名盤です。
 (ジャズピアニスト、長崎市出身)