足元を見る

 主要な交通手段が「徒歩」だった時代、旅の長さや疲労の度合いは旅人の履物や足取りを見れば一目瞭然だ。悪徳運送業者は考える。あんなに疲れているのなら、法外な値段をふっかけても大丈夫…人の弱みに付け込む〈足元を見る〉はそこから来た言葉▲だって欲しいでしょ、だったらカードを、と露骨に足元を見られている気分だ。新型コロナウイルス経済対策の一環として政府が打ち出したマイナンバーカードによるポイントの給付▲一昨日の記事によると、新規取得時に5千円分、健康保険証として使うと7500円分、預貯金の口座と連結するとさらに7500円分。どれも、キャッシュレス決済の利用が前提らしい▲この給付策が目指すのは生活支援なのか、景気の刺激か、それともカードの普及か。もらえるポイントが段階的に増える辺りに政府の意図が見える▲カードが皆に広く行き渡ることで暮らしや社会はどう変わっていくのか、その変化は誰にとって好都合なのか、個人情報保護の不安は解消されたのか。言葉や機会を尽くしてなされるべき説明や説得は省略されて、代わりに配られる2万円分のポイント▲〈カネが欲しいか、そらやるぞ〉-どこで聞いたのか思い出せないが、あまりに身もふたもない童謡の替え歌、一節が耳から離れずに。(智)

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