50歳以上は「iDeCo」に新規加入するべきか?改正で増えたメリットと注意点

老後の資産形成の最強の仕組みと呼ばれる「iDeCo」ですが、50歳以上の方からは加入を躊躇する声がこれまで多く聞かれました。しかし令和4年の改正で、ますます魅力が増したことをご存じでしょうか?

今回は、50歳からのiDeCo新規加入について解説します。


60歳からの「空白期間」が積立可能になる

iDeCoは60歳までは、お金を受け取れません。同時に全ての人が60歳から受け取れる訳でもありません。なぜならiDeCoには「10年ルール」があり、60歳で老齢給付を受け取るためには、それまでに10年以上の通算加入期間があることが条件となっているからです。加入期間とは積立を実行した期間という意味です。

つまり、50歳を過ぎての加入だと、60歳までの加入期間が10年に満たないので、どんどん受け取り時期が遅れていくのです。60歳までの通算加入期間が8年以上10年未満だと受取開始は61歳以降、6年以上8年未満だと受取開始は62歳以降、4年以上6年未満だと受取開始は63歳以降、2年以上4年未満だと受取開始は64歳以降、2年未満だと受取開始は65歳以降です。それぞれ受取が制限される期間は「運用指図者」として、すでに保有している資産の運用のみを継続します。

例えば58歳でiDeCoに新規加入をすると、積立できる期間が2年未満なので、60歳以降4年間も受取ができない「空白期間」ができます。これを嫌いiDeCoの加入はメリットがないと考えてしまう方が多かったのも理解できます。積立てをしないと所得控除のメリットもありませんし、運用指図の期間中も口座を維持するためのコストが発生します。

しかし令和4年5月にiDeCoの加入資格が65歳まで拡大されました。条件は国民年金被保険者であることなので、60歳以降も会社員を続ける予定の方にとっては朗報です。仮に58歳でiDeCoに新規加入しても、積立は65歳まで継続できます。企業年金がない会社にお勤めであれば、年間276,000円、企業年金がある会社にお勤めの方、あるいは公務員であれば年間144,000円をそれぞれ上限として所得控除も受けられます。

58歳からの加入の場合、65歳まで継続加入しても通算加入期間が10年に満たないのですが、受け取りは65歳からとなり、それ以上の据え置きはありません。これまで多くの方が嫌った「空白期間」がなくなるのですから、50歳以上の新規加入もメリットがあると考える方が増えるのではないでしょうか?ただし、60歳以降の新規加入の場合だけは、5年を経過しないと受取ができないので、やはり少しでも早い時期に加入する方が得策です。

運用指図者も掛金の拠出を再開できる

iDeCoの加入可能年齢が引き上げられたと同時に、企業型確定拠出年金(企業型DC)の加入可能年齢も65歳から70歳に引き上げられました。ただこちらは会社の規定が優先されるので、まだまだ加入資格を定年と同じ60歳としている会社の方が多いようです。

例えばその場合、60歳で企業型DCの加入資格を失った後も同じ会社に勤めながら運用のみを続けているのであれば、今度はiDeCoに加入できます。定年後別の会社で働いているという方も同様です。

主なメリットは、掛金を拠出することによる所得控除の創出ですが、運用で資金を増やしたいというニーズがある方であれば、65歳まで掛金を拠出し投資資金を増やすことができるというのも大きな魅力でしょう。

企業型ではなくiDeCoに60歳まで加入していて現在運用指図者だという方も、iDeCoに再加入が可能です。ただし、iDeCoの老齢給付を受け取ったという方はiDeCoへの再加入ができません。

運用指図者は運営管理機関に加入者に変更する旨を届けると、掛金の拠出を再開できます。しかし運営管理機関を変更する際は、一旦すべての資金を売却して現金化した上で資金の移換を行わなければならないので、注意が必要です。

定年後に「第二の退職金」をつくる

iDeCoの老齢給付を受け取った場合は、iDeCoへの再加入ができないと前述しましたが、企業型DCの老齢給付を受け取った方はiDeCoへの加入が可能です。同様に、iDeCoの老齢給付を受け取った後に、企業型DCに加入することも可能です。

例えば60歳で企業型DCの加入資格を失ったと同時に老齢給付を受け取った後でも、加入条件を満たせば今度はiDeCoに新規加入できます。65歳までの5年間で新しく200万円の退職所得控除を作ることができるので、第二の退職金づくりに有効です。

ここで少しiDeCoのメリットである一括受取の際の退職所得控除について補足します。退職所得控除は、勤続年数に応じて計算されます。勤続20年までは1年あたり40万円、勤続20年超については1年あたり70万円で計算します。iDeCoの場合は加入期間を勤続年数と読み替えて計算しますが、企業型DCの場合は会社の退職一時金と同時に、確定拠出年金の老齢給付を一括で受け取ることで、このメリットを有効活用する場合も少なくありません。

仮に会社の勤続年数が38年とすれば、退職所得控除は2,060万円です。ここで、退職一時金が1,500万円で企業型確定拠出年金の老齢給付が500万円というケースでは、退職所得控除の枠を無駄なく使いきるために、確定拠出年金の資金を一緒に受け取った方がメリットは大きくなります。

今回の法改正は、このような形で企業型DCを受け取った方がiDeCoへ加入することを可能にしました。これにより退職所得控除を使いきってしまった後でも、新たな加入期間で新しい退職所得控除を作れるようになります。

例えば、60歳以降iDeCoに新規で5年加入すると、退職所得控除は200万円となります。月々23,000円の積立を5年続けると138万円ですから、仮に運用益がのったとしても、65歳以降に老齢給付を一括で受け取る際に200万円の退職所得控除を使えますから、結果として非課税で全額受け取れる可能性が高いと言えます。

老後の生活設計をトータルで考える

iDeCoは税制優遇がとても優れているので、つい損得勘定が先に立ってしまいますが、もっとも重要なことは老後の生活設計をトータルで考えることです。

50歳以上の方が受け取る「ねんきん定期便」は、60歳までの年金加入を想定し、より現実的な見込み額が記載されているので、公的年金の受給開始年齢、繰上げなのか繰下げなのか、も含め計画をします。また今後の働き方、会社の企業年金や退職金の有無、貯蓄額を含めたキャッシュフローも考慮します。

結論として、iDeCoは老後の生活設計の一つのパーツですから、目先の損得にとどまらず上手に活用していただきたいと思います。

© 株式会社マネーフォワード