40代自営業夫婦。子3人を大学に行かせると老後資金に不安あり。今の貯蓄ペースで大丈夫?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、夫の法人の役員をしている44歳の女性。厚生年がないため、7歳、10歳、13歳の子どもたちを大学まで出したあとの老後資金に不安があるといいます。現在の貯蓄ペースで問題ないでしょうか? FPの高山一惠氏がお答えします。


夫婦とも自営業のため、老後資金に不安があります。今の収入と貯蓄ペースで大丈夫でしょうか?

公的年金を増やすために、75歳まで繰下げ受給したいと思っています。75歳まではiDeCo等の積み立てたお金を受給とし、プラス仕事も月数万円でも良いので幾らかの収入を得て生活したいです。

また、住まいが手狭なので住み替えたいです。売却するか、繰り上げ返済して賃貸に出すか悩んでいます。また、住み替え先は賃貸希望です。家賃上限はいくらが適切でしょうか?

子どもの学費は、高校大学で1000万円/人を想定しています。保険は、①学費保険代わりの夫終身保険、第1、2子それぞれ大学進学時の解約返戻金200万円×2本②第二子10歳で払込終了の学資保険、15歳満期300万円の2種類で、子ども手当から支払っています。

よろしくお願いいたします。

【相談者プロフィール】

・女性、44歳、自営業(夫の法人の役員)

・夫:44歳、自営業(法人代表。医療技術系フリーランス)

・子ども3人:7歳、10歳、13歳

・住居の形態:持ち家(マンション、近畿地方)

・毎月の世帯の手取り金額:73万5,000円

・年間の世帯の手取りボーナス額:80万円

【毎月の支出の内訳】

・毎月の世帯の支出の目安:44万円

・住居費:8万7,000円

・食費:10万5,000円

・水道光熱費:1万6,000円

・教育費:8万7,000円

・保険料:4万円

・通信費:1万円

・車両費:8,000円

・お小遣い:特に決めていません

・その他:日用品等3万5,000円、税金3万円、趣味娯楽1万5,000円、衣服美容1万円、車8,000円、交際6,000円、医療2,000円、その他3万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:決めていません

・ボーナスからの年間貯蓄額:80万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):870万円

・現在の投資総額:小規模企業共済470万円、iDeCo915万円、株・投資信託1,230万円

・現在の負債総額:1,666万円(住宅ローン:物件購入額2,998万円円、借入額1,800万円円、金利096%、返済期間35年)

・老後資金:2人合わせて公的年金月額20万弱円、退職金の有無不明。

・毎月iDeCo11万円(全世界株式インデックスファンド)、小規模企業共済7万円をかけています。

高山:ご相談ありがとうございます。家計を拝見したところ、お子さん3人を育てながら堅実に暮らしており、既に老後に備えてiDeCoや小規模企業共済などもやっていらっしゃるようですが、ご夫婦ともに自営業で老後に不安があるとのこと。では、現在の家計や資産状況で老後の資金準備が大丈夫かどうか見ていきましょう。

老後の収入を「見える化」する

老後の資金にご不安があるとのことなので、まずは、老後にどれくらいのお金を準備したら良いのかを考えてみましょう。考え方としては、老後の年間収入から老後の年間支出を差し引いた金額が年間で足りない生活費の金額となります。そこで、老後の年間収入の柱となる年金の金額をざっくりとでも良いので、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」などを利用して確認しておきましょう。

ご相談者さんからの情報によると、老後の年金はご夫婦2人合わせて月額約20万円とのこと。公的年金は75歳までの繰り下げ受給を希望しているようですね。仮に75歳まで繰り下げると、本来受給できる金額の84%増額になるので、月額約37万円になります。

次に老後の資金準備として、iDeCoと小規模企業共済をやっていらっしゃるとのことなので、こちらを試算してみます。

【iDeCo】
毎月11万円掛金を拠出しているとのこと。44歳から60歳まで毎月11万円をiDeCoに拠出し、4%の利回りで運用できたとして試算すると、60歳の時に約2,950万円になります。現在のiDeCoの残高915万円と合わせると、3,865万円となります。

【小規模企業共済】
毎月7万円掛金を拠出しているとのこと。加入の詳細はわかりませんが、44歳から60歳まで加入するとして、60歳で共済金Aプランで受け取るとすると、約1,520万円となります。現在の小規模企業共済の残高470万円と合わせると1,990万円となります。

iDeCoも小規模企業共済も掛金の全額が所得控除となり、所得税、住民税も安くする効果があります。今回は所得控除による節税分は考慮していませんが、節税分も貯蓄に回すことができればさらに老後の準備資金は増えます。

上記の結果から60歳までにiDeCoと小規模企業共済合わせて、5,855万円になる予定です。

老後の支出を「見える化」する

では、次に老後の主な支出を考えてみましょう。老後の生活の主な支出は、(1)日常生活費、(2)臨時出費、(3)医療費・介護費です。

老後の日常生活費の年間支出は、現在の1カ月の生活費を12倍すれば、おおよその金額がわかります。ただし、老後の生活費は現役時代の生活費の7〜8割になるともいわれます。総務省統計局「家計調査」(2019年)によると、70歳以上の生活費は現役時代(50歳〜59歳)の生活費の68.1%となっています。ですから、現在の生活費の7割として試算しても良いでしょう。

参考までに2019年の家計調査を利用して、1カ月の生活費の平均を見てみましょう。

高齢夫婦無職世帯の実収入の平均額は、23万7,659円、支出の合計(消費支出+非消費支出)は、27万929円です。この金額は持ち家を前提とした衣食住の基本生活費です。ご相談者さんは、賃貸暮らしもお考えのようですので、この金額に10万円程度を上乗せします。となると、約37万円の生活費がかかるということになります。

家を売却するのか、人に貸すのかによっても試算が変わってくるかとは思いますが、今回は話をシンプルにするために、生活費が37万円かかるとして試算します。

老後の収支をシミュレーションしてみよう

75歳から公的年金を受け取ることをご希望されているようなので、60歳から74歳までは、iDeCoと小規模企業共済の資金を取り崩すとします。

公的年金を受給されるまでは、月数万円の収入を得られるお仕事をしていたいとのことでしたので、65歳までは月に15万円の収入、66歳からは毎月7万円収入を得るとします。

◆60歳から65歳までの取り崩し金額
22万円×12カ月×5年間=1,320万円

◆66歳から74歳までの取り崩し金額
30万円×12カ月×8年間=2,880万円

取り崩し金額の合計は、4,200万円

これに加えて、医療費や介護費用を準備しておきたいところです。目安は1人あたり500万円です。さらに、臨時出費として「家具・家電の買い替え」「家のリフォーム代」「レジャー費」「冠婚葬祭費」「子どもの結婚資金の援助費用」「孫への援助費用」などがあります。

60歳までにiDeCoと小規模企業共済合わせて、5,855万円になる予定ですから、基本生活費と医療費、介護費用までは賄えそうですね。75歳以降は、繰り下げ受給をすると、月額37万円受給できるので、基本生活費は賄える試算になります。

老後も旅行に行ったり、それぞれのお子さんへの資金援助などを考えていたりする場合には、上記を踏まえた上で、今後の貯蓄や60歳以降の収入についても検討してみてください。

現在の貯蓄ペースが守れるかは今後の教育費次第

現在の貯蓄ペースが守れれば、老後の基本生活は問題なく送れると思いますが、現在の貯蓄ペースが守れるかどうかは、今後のお子さんの教育費が鍵を握っています。

3人のお子さんそれぞれの今後の教育費について見てみましょう。

ご相談者さんの情報から高校・大学で1人あたり1,000万円を想定されているとのことですので、中学までは公立、高校・大学は私立として考えます。高校の教育費までは家計から捻出し、大学の費用はまとまった資金になるので、貯蓄から捻出するというのが、教育費の基本的な考え方になります。

お子さんの年齢が7歳、10歳、15歳とのことでしたので、公立小学校、公立中学の学費に加えて、私立高校に進学する予定で家計からの捻出金額の目安を見てみます。

文部科学省の「子どもの学習費調査」から試算すると、公立小学校の場合、毎月の家計から捻出する目安が2万7000円、公立中学の場合、毎月の家計から捻出する目安が4万円、私立高校の場合、毎月の家計から捻出する目安が8万円です。

現在の家計状況であれば、3人のお子さんの高校までの学費は毎月の家計から問題なく支払えるでしょう。

現在の貯蓄ペースが守れるかは今後の教育費次第

大学の費用は私立の場合、文系か理系かにより違います。「令和元年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額」によると、私立文系の4年間の学費は、約400万円、私立理系は、約543万円になっています。

年間のボーナス80万円を全額貯蓄できていること、現在、株・投資信託の資産が1,200万円程度になっていること、預貯金が870万円あること、保険での学費準備金なども考えると、大学の資金も準備できそうです。教育費も準備しつつ、老後の資金準備もできる見込みといえます。

3人のお子さんを育てながらしっかりとご自分たちの老後についても準備されていて立派です。家を売却するのか、人に貸すのかなどにより、家計や資産の状況も違ってくるかとは思いますが、現在の家計状況をキープしながら、資産運用も継続していただくことで、老後の基本的な資金準備は可能ですので、ぜひ、頑張ってくださいね。

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