なぜ広島と分断… 「黒い雨」救済巡り被爆体験者 がん一部医療助成対象「小手先」

「黒い雨」の被害救済を巡り、広島との分断が続く現状への落胆や困惑を語った岩永さん(右)と山内さん=県庁

 「被爆体験者」の期待はまた裏切られた。9日、長崎市で会見した岸田文雄首相は、原爆の「黒い雨」被害救済に向けた被爆者認定新基準の対象を、広島に限る判断を維持。長崎でも黒い雨などに遭ったと訴える体験者は、同じ被爆地で「分断」が続く現状に困惑する。「怒りでも抗議でもなく、全く不可解」
 国の指定地域外で長崎原爆に遭い、被爆者と認められない体験者。国は昨夏以降、広島高裁が被爆者認定した広島の黒い雨被害者と「同じような事情」の人の救済を進めるが、長崎の体験者は除外している。
 岸田氏会見の約2時間後、被爆者認定を求める集団訴訟の原告らが、県庁で会見。岩永千代子さん(86)は「あぜんとした。なぜ広島と分断するのか」と落胆。山内武さん(79)は「何が『聞く耳を持っている』だ。77年苦しみ、裁判も続け、仲間も亡くなった。本当に情けない」と語気を強めた。
 岸田氏は体験者の医療費助成対象に「がんの一部」を加える考えを示したが、原告側の三宅敬英弁護士は「小手先ではなく一括解決すべき時期に来ている。時間の引き延ばしをしている印象」と批判した。被爆者4団体も被爆体験者救済を要望しており、県被爆者手帳友の会会長で医師の朝長万左男さん(79)は、医学的知見から「がんを区切るのは難しい」と指摘。線引きにより新たな裁判が生まれる懸念もあるとし「(厚生労働省は)何を考えているのか。『一部』という思考法は理解できない」と苦言を呈した。

© 株式会社長崎新聞社