子供1人を望む30代前半夫婦、50代後半で夫の早期リタイアは可能?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、34歳の会社員の男性。33歳の妻と一緒に暮らす相談者。現在不妊治療中で、子供1人を望んでいます。妻は出産後は扶養内で勤務する予定。そのうえで、50代後半に早期リタイアを希望していますが、希望は叶うでしょうか? FPの高山一惠氏がお答えします。


早期リタイヤ(50歳代後半)に興味があり、相談させていただきます。

結婚5年目で子供なし。現在不妊治療をしており、子供が1人欲しいと思っています。3年前に戸建を購入し、住宅ローンが2,200万円残っています。金利約0.4パーセントとかなり安い住宅ローンが組めておりますので、住宅ローン控除の恩恵を受けた後、一括返済する予定です。

一昨年から、つみたてNISA満額、今年の初めから投資信託10万円を購入しています。個別株にも手を出していますが、資産を減らす結果となっているので現在はやっていません。

妻は現在、正社員として勤務しており、子供ができたら現在の仕事は退職し、私の扶養範囲内でパート勤務することを考えています。現在は、夫婦共に収入があるため、妻の正確な収支は把握しておらず、完全別会計です。

子供が生まれた後、妻が扶養範囲内で働くと仮定して、いくらまで貯めれば50歳代後半の早期リタイヤは可能かご教示ください。食費、通信費は高いと思いますが、共働きのうちはそのままで、妻が仕事を退職した段階で見直そうと考えています。

収入というわけではありませんが、今後、私方の両親から生前贈与で毎年100万円ずつ相続する予定です。

【相談者プロフィール】

・男性、34歳、公務員 ・妻:33歳、会社員

・その他:自分の実家、妻の家の介護は必要なし。

・住居の形態:持ち家(戸建て、関東地方)

・毎月の世帯の手取り金額:54万円(夫34万円、妻20万円)

・年間の世帯の手取りボーナス額:220万円

・毎月の世帯の支出の目安:32万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:6万2,000円

・食費:8万円

・水道光熱費:3万円

・教育費:1万円

・保険料:1万円

・通信費:3万円(2台で2万4,000円、自宅のWi-Fi6,000円)

・車両費:5,000円(ガソリン代)

・お小遣い:6万円(それぞれ3万円)

・その他:3万円(ペット1万円、特別費2万円)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:10万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:200万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):3,000万円

・現在の投資総額:300万円

・現在の負債総額:2,200万円

高山:ご相談、ありがとうございます。50代後半での早期リタイアをご希望とのこと。堅実な生活に加えて、貯蓄・資産運用も頑張っていらっしゃいますね。お子さんをご希望されているとのことですので、お子さんが生まれたと仮定して、試算してみたいと思います。

58歳までにどれくらい資産を増やせるか

50代後半での早期リタイアをご希望とのことですが、これから必要資金を試算するにあたり、仮に58歳でリタイアすると仮定します。まずは、58歳でリタイアする計画を立てるにあたり、今後24年間でどれくらい資産を増やせるのかを把握しておくことが大切です。

ご相談者さんの現時点での資産を整理してみましょう。

・現在の貯金総額(投資分は含まない):3,000万円
・現在の投資総額:300万円

ただし、7年後に住宅ローンの一括返済を考えていらっしゃるとのことなので、ローン残高約1,700万円を普通預金3,000万円から捻出するとします。ですから、普通預金は、3,000万円―1,700万円=1,300万円として試算します。普通預金1,300万円は0.001% で運用したとすると、ほとんど利息がつかないので、24年後も1,300万円とします。

投資については、投資信託で運用されているとのことですが、投資信託300万円は、国内外の株、債券に投資しているバランス型ファンドで運用するとします。金融庁のデータによると、国内・先進国・新興国の株、債券に分散投資をした場合の年平均利回りは、4%程度とのこと。ですから、バランスファンドで、年利4%、24年間運用できたとすると、24年後は、約770万円となります。

つまり、現在の資産は24年後に普通預金1,300万円、投資信託770万円で合計2,070万円となります。

今後の貯蓄・投資はどうなる?

次に今後の貯蓄・投資について見てみましょう。

現在、手取り月収が54万円程度ですが、お子さんが生まれた後は、妻は相談者さまの扶養範囲内で働くとのこと。計算をわかりやすくするために、今から妻の年収は100万円として試算してみます。

そうなると、手取り月収は、42万円程度となります。ボーナスについては、内訳がわからないので、手取りで140万円(夫分のみ)になるとします。

仮に生活費を30万円とすると、残り12万円が貯蓄に回せることになります。ここでは、毎月12万円をつみたてNISAも含めた投資信託で積立投資をするとします。

毎月12万円を上記のバランスファンドに投資することとします。多くのFIRE本では、基本的に個別株や株式型インデックスファンドを推奨していますが、ここでは私たちの年金を運用している、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も実践している、「守りつつ増やす」バランス運用で考えていきます。

毎月12万円を運用利回り4%で24年間積み立てると、24年後は投資信託積立の結果、約5,787万円となります。

ボーナスは、半分の年間70万円を貯蓄に回すとして、24年間で1,680万円貯蓄できるとします。

今後増える予定の資産と現在の資産の24年後の合計は、

普通預金:2,980万円(普通預金+24年間のボーナス分)
投資信託=6,557万円
普通預金+投資信託=9,537万円
※運用結果については、税金を考慮していません。

なお、上記の試算で用いている利回り4%は、絶対ではないことにご留意ください。また、今回は、退職金、贈与でもらえる予定の資金は加味していません。

58歳〜65歳までの必要資金を試算する

では、ここからは58歳時点で9,537万円の資産があるとしてリタイアできるかどうか見てみましょう。

58歳で仕事を辞めて、年金が支給される65歳までの生活費を試算するにあたり、お子さんはすでに大学を卒業し、教育費はかからず、夫婦2人の生活費として25万円かかるとします。

25万円(毎月の生活費)×12カ月×7年間=2,100万円が必要になります。

生活費の他にも、旅行代や臨時支出代もかかると思います。リタイア後の生活は旅行などで楽しむとして旅行代、臨時支出代として年間100万円程度かかるとすると、700万円が必要になります。

また、注意事項としては、会社員をやめると、健康保険から国民健康保険に変わるので、病気やケガなどで休んでも傷病手当金は支給されないなど、社会保障は手薄になりますので、この点については注意しましょう。

とはいえ、数字上だけみると、58歳〜65歳までは計画通りに進めば大丈夫そうですね。

65歳以降の必要資金を試算する

上記に加えて、65歳以降の生活費も考える必要があります。

まず、どれくらいの年金が出るかですが、ご相談者さんと妻の詳細な年金加入の状況がわからないので、私の方で次の条件で簡単に試算しました。夫は、平均年収600万円で厚生年金に35年間加入、妻は、平均年収200万円で厚生年金に35年間加入したとすると、2人合わせて月額約25万円の年金がもらえます。

毎月の生活費が25万円とすると、今の年金制度が継続すれば、毎月の年金で生活費分は補えることになります。ただし、65歳以降も冠婚葬祭や家のリフォーム代などの臨時支出や旅行代などもかかる可能性が高いでしょう。

さらに、高齢になると、病気になったり、介護が必要になったりするケースが多く、医療費や介護費用として1人あたり500万円程度必要といわれています。夫婦2人合わせると1,000万円程度が必要です。

ただし、65歳時点で、6,000万円以上の資産が残っている計算になりますので、よほどのことがない限り大丈夫でしょう。

教育資金についても把握しておこう

ここまでの試算では、問題なく58歳までにリタイアできる目処が経ちそうですが、念の為教育資金についても確認しておきましょう。

文部科学省などが公開しているデータによると、幼稚園から大学まで、全て公立の場合には、子供1人につき約1,000万円、全て私立の場合には、子供1人につき約2,500万円かかります。ひとくちに教育費といっても通う学校によって学費に1,000万円以上の差がでますので、子供が小さいうちから漠然とでも進学コースを決め、いつの段階で、どれくらいの金額がかかるのかを把握して、計画的に準備していく必要があります。

基本的には、子供が高校を卒業するまでは、学費は家計からやりくりしたいところです。文部科学省より「子どもの学費にかかる保護者が支出した教育費」のデータが発表されています。

これによると、例えば、公立中学の場合、学習費総額は年間約48万円なので、家計から毎月4万円の支出になりますが、私立中学の場合、学習費総額は年間約140万円なので、家計から毎月10万円以上支出することになります。希望する進学プランで高校まで進学した場合、上記のデータなどを参考に、家計から支払えるかどうか予想しておきましょう。

ただし、教育費のピークである大学費用は家計からの捻出だけでは間に合いません。大学入学費用として子供が18歳になるまでに最低300〜500万円は貯蓄したいところです。これまでの堅実な家計を続けていただければ、教育費についても特に問題はないでしょう。

今回はややこしくなってしまうので省略しましたが、資産の取り崩す際も、運用を続けながら行えば、資産寿命は伸びます。その点も考慮すればさらに、資金に余裕が生まれそうです。これまで通り、堅実な生活に加えて、ぜひ、資産運用にも励んでくださいね。

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